第34話 城跡 その2

 僕たちメンバーは城跡の内部に入る。

 建物内も壊されており、上の階は壊れていて調べるまでもない。

 そのため、たいまつを用意し、地下へ降りていった。


 外から見える部分は瓦礫が転がっており、戦争の生々しさを残していた。

 だが、地下に来るとその状況は一変する。

 きれいに整備され、現在でも使われている形跡があった。


「どうやら、この場所でアタリのようですわね。注意してください」


 座長の言葉に、メンバーの全員が気を引き締める。

 地下室にはいくつもの部屋があり、扉も新しいものが取り付けられていた。


「――見たところ、誰もいないようですね……」


 レナさんがたいまつで周囲を照らす。

 そして、近くの扉に近づく。

 耳を近づけて物音などを頼りに中の様子をうかがっているようだ。


「特に誰かが潜んでいる様子はないが、少し違和感が……」

「そうだな、どの部屋からも弱いけれども魔力を感じる……。これは――」


 急に青ざめたイザベラ姉さんが扉を開けようとする。


「クソッ! 鍵が――」

「開ければいいんだね? ホイッ!」


 ミアが軽く扉を蹴破った。


 部屋の中を照らすと、十歳にも満たないような子供たちが何人も横たわっていた。

 どの子供も目を開いたまま、遊び飽きた人形のように転がされている。


「おい! 大丈夫か? しっかりしろ!」


 レナさんが子供たちの体をゆすって呼びかけるが、どの子供も反応しない。


「イザベラ、これはどういうことなんだ!」

「これは人を凍らせたかのように仮死状態にする魔法・フローズンね。この魔法自体に害はないから、とりあえずは心配ないわ。ただ、こうやって人を麻痺させて管理するってことは、この後に人そのものを魔法の触媒や器、エネルギーとして活用するってこと――」


 メンバーが息をのむ。

 部屋を見回した僕は、胸騒ぎがする。


「ミア、そういえば教会の盗賊は子供を百人集めると言ってなかったか?」

「えっと……、そんなことを言っていたような……」


この部屋にいる子供たちは、だいたい二十人ってところか。


僕は子供たちの顔を確認する。


ここにはいない。ってことは――。


「ミア! 一緒に来てっ!」

「えっ? うんっ!」


 隣の部屋の扉も蹴破る。

 その隣の扉も、その隣も――。


 どの部屋も同じように魂を抜かれたようなように子供たちが横たわっていた。

 合わせれば、全員で百人程度はいそうな人数だ。

 たいまつで子供たちの顔を確認していく。


 この子でもない、この子でもない――。


「はっ! クレア! クレア! しっかりしろ!」


 僕は妹を見つけ、上半身を抱え上げた。

 焦点の合わない目、硬直した腕――。

 体温が感じられるものの、見た目には生きているのかも分からない状態だ。


「その方は、妹のクレアさんですの?」


 振り返ると、座長と、そしてメンバーが集まってきていた。


「座長! クレアを助けてくださいっ! お願いします! お願いします!」

「クリス、落ち着きなさい。イザベラ、あなたにこの魔法を解除することは可能なのですか」

「もちろん、――ですか、フローズンは、その地味な効果の割には、本来の目的の前に邪魔をされないよう、術者以外が解くには多くの魔力と時間を必要とするよう術式が組まれています。クリスの妹だけを助けることは何の問題もないことですが、さすがにこの子供たち全員となると、正直、自信がありません」


 少し不安げな表情を浮かべるイザベラ姉さん。


「お前ほどの魔術師が、何を弱気なこと言ってんだよっ!」

「魔法は色々な要素が絡まってくるんだ。そう簡単にはいかない。剣士のレナには分からないことだっ!」


 イザベラ姉さんもいら立ちを隠さない。


「そこまでにしなさいっ。イザベラがそう言うのであれば、すぐに全員の回復は無理なでしょう。まずはクレアさんの回復を」

「はい、分かりました。クリス、そこへ寝かせて」


 言われたとおりに寝かせると、僕は妹から離れる。

 イザベラ姉さんはクレアの側に近づくと、その身体に両手をかざした。


「天と地と森に宿りし精霊たちよ、我が願いを聞き入れよ。闇に迷いし御霊を崇高なる力に寄りて現世へと戻したまえ――」


 詠唱が終わると、クレアが横になっている床面に魔法円が浮かび上がる。

そして、その魔法円から光があふれ、少女の身体を包み込んでいった。


 イザベラ姉さんが解除を始めた以上、もう、僕たちは見守るしかない。


「しかし、困りましたわね。物量で挑まれるのは、少数精鋭であるわたくしたちの最も不得意とするところ。クレアさんは助けられるとしても、この人数です。他の子供たちを抱えて助け出す、という訳にもまいりませんわ」

「敵は正規軍とも繋がりがあります。ここで、むやみにどこかへ助けを求めるのも危険です」


 座長とレナさんも打つ手なしといった様子だ。


 そんな間に、魔法を通じてイザベラ姉さんが魔力を送り続ける。

 すると、クレアの目にじわっと涙がたまり始める。


「クレア、クレア! しっかりしろ!」


 僕は妹の傍らで叫ぶ。


「う……、ぉ……にぃ…………ちゃ……ん」


 イザベラ姉さんの解除魔法の最中であり、僕はクレアを抱きしめてあげたい気持ちをこらえていた。周りを見ると、声すら上げられない子供たちが寝かされている。


 クレアを、何の罪のない子供たちを、どうするつもりなんだ。


 グッと奥歯を噛んでいた。


「座長! どこの誰だか分かりませんが、こんなことをする奴ら、僕は許せませんっ!」

「クリスはやる気みたいですよ。座長、ここで決着といきませんか」


 レナさんは口の端を上げ、ロングソードを少しだけ抜いて見せる。


「なるほど、悪くない案ですわ。弱点となる子供たちを助けられないままやられてしまうぐらいなら、一点突破でボスの首を取る。少数精鋭のわたくしたちにあった、いい案です」


 座長も大きくうなずいた。


 いや、ただ許せないってだけで、作戦を提案したつもりなんかは――。


「お……お兄ちゃん……」


 クレアの瞳に精気が戻ってくる。

 少女を包んでいた光がふわっと消え、魔法円がゆっくりと霧散した。


「しばらくは身体に力が入らないだろうけど、もう大丈夫よ」


 疲れたようにイザベラ姉さんがため息をつく。


「イザベラ、ごくろうさまでした。しかし、休んでいる時間はありません。準備を整え、敵を迎え撃ちますわ」

「ええ、分かっています。あたしもこんなことをする奴らを許せません。早速、向かいましょう」


 僕はクレアを背負うと、座長たちについて地上へと上がった。

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