第33話 城跡 その1
僕たちは旧市街地の城跡へとたどり着く。
少し小高い何もない丘に、破壊された城壁。城内の塔や建物も壊されており、離れたところから見ても明らかに廃棄された城だ。元々、旧市街地はこの城を中心に発展してきたのだろう。だが、近くの激戦地で勝利を収めたアルテア軍がなだれ込み、周辺市街地を巻き込んで破壊しつくしたと思われた。
城跡で警備する鎧を着た兵士を遠めに見ながら、座長が顎に手をあてる。
「外から見えるのは正門の二人だけですか。使っていないとはいえ、現領主の所有地。先ほどの教会のように誰でも忍び込める、という訳にはいかないようですわね」
「そのようですね。でも、私たちなら問題ありません。――それじゃ、あれ、たぶん、正規軍ですが、やっちゃっていいですね?」
急にレナさんが嬉しそうな表情で兵士を指さす。
「もちろんですわ」
座長もいたずらっぽく答えた。
◇◆◇◆
「は~い、お兄さん。こんな夜遅くに、ご・く・ろ・う・さ・ま」
イザベラ姉さんは城跡の正門までくると、警備をしている兵士たちにウインクする。
「なんだ、お前。ここは立入禁止だ」
「あ~ん、面白くないの。仕方ないわねぇ。それじゃ、よく眠れるおまじない。お・や・す・みぃ」
イザベラ姉さんが気を引いている隙に、レナさんが当て身で、ミアが頸動脈を締めて警備の兵士を落とした。
「イザベラを見ながら落ちるなんて、コイツら最悪だな」
崩れを落ちた兵士に、レナさんが憐みの目を向ける。
「あたしが兵士の気を引いてやったのに文句があるのかい?」
「いや、なんだか、寝覚めが悪いだろうなって思うと、可哀そうになっただけだよ」
「そりゃ、脳筋女の乱暴な扱いを受けりゃ、誰だってそうさ」
「もうその辺にしてくださいますか。今はそういう時ではありませんの」
やれやれとばかりに座長が小さく首を振る。
さすがに、レナさんたちもその辺はわかるようで、おとなしく引き下がっていた。
「それでは、中へ行きますわよ」
座長は城跡の中へと入って行った。
◆◇◆◇
城跡の中も外から想像したとおり、塔や建物は破壊されていた。
中庭には瓦礫が散らばり、見たところ、修復された様子もなかった。
「待ち伏せ……は、ないようですね」
レナさんを先頭にメンバーは慎重に進む。
特に人の気配も感じられない。
「領主の城跡に守衛として兵士がいたとしても不思議はありませんわ。ですが、建物が破壊されたままとなれば高価なものがあるとも思えませんし、無理に入りたいと思う者もいないでしょう。ここは部外者が入らず、誰も興味を持たない場所。つまり、ここは何かを隠すにはちょうどよい場所とも言えますわね」
「その場合、この国と盗賊がグルになって何かを企んでいることになりますが……」
座長の言葉に、イザベラ姉さんが声をひそめて言う。
「領主代行の事務所でのこともあります。どうやらこの一件、わたくしたちを必要としているようですわね」
そう答える座長の後ろでミアが不思議そうに見上げる。
「なんだろう、これ?」
そこには大きな岩があった。瓦礫というにはあまりにも大きすぎ、もともとの城の構造物というには何の変哲もない、ただの岩。城には不釣り合いなものが中庭に鎮座していた。
「ほら、建物の中に入るぞ」
振り返ったレナさんに促され、ミアも座長たちに続いた。
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