第28話 宴の後 その3
「ほぉ、地下室というわけですね」
座長が開いた床板の奥をのぞき込む。
床板の奥は階段が続いており、下へ降りられるようになっていた。
「イザベラ、地下室を照らしてくれ」
「はいよ。宴会芸用だから、あまり早くは動かせないよ」
舞台で見たように、ゆらゆらと揺れ動きながら火の玉が地下室へと入っていく。
その火の玉に続いて、レナさんが階段を下りていく。
「ほら、クリス。下へ降りるぞ」
「はい。――レナさん、何かあるって分かっていたんですね? 最初からそう言ってくれればいいのに。脅かすなんて、ひどいじゃないですか」
「確信があったわけじゃないさ。何もなければ、クリスで遊んで終わるつもりでね」
レナさんが振り返るとウインクをする。
僕で遊ぶとか、ひどいじゃないか。根に持ちますからね。絶対に。
「あまり似合いませんね。そのウインク」
「悪かったな」
僕は精一杯の嫌味で返してみた。
遊ばれたんだし、このぐらいはいいよね。
階段を降りると、鍵のかかった扉があった。
「おい、誰かいるのか?」
「助けてください。ここから出してください」
レナさんの問いかけに、弱々しい子供の声が答えた。
「すぐに助けるからな」
地下室の扉には大きな南京錠が付いていた。
見たところ、素手では開けられそうにない。
「――これなら壊せるかな……」
扉を調べていたレナさんは、扉の取り付け部分が朽ちて弱っているのを確認。
何度か蹴ってみる。
だが、思ったより丈夫で扉は外れず、レナさんは舌打ちをする。
「はいはい、今度はボクの出番かな?」
嬉しそうにミアが階段を下りてくる。
ミアは扉の前の場所でレナさんと代わると、軽く足を上げた。
「じゃ、行くよ! ほいっ!」
ドカン!
軽く前蹴りをすると、扉が吹き飛んだ。
すげー。なんとなく知ってはいたけど、ミアって、力あるな。
吹き飛ばした扉の中は真っ暗。
その部屋の中には、十歳にも満たないような子供たちがいた。
「もう大丈夫だ、安心して。――一1,2、3、4……、5人だけなのか?」
「かなり多くの子供たちがさらわれているのに、これは少なすぎますわね。そうなると、ここは一時的な保管場所と考えるべきでしょう」
レナさんの疑問に、地下室に降りてきた座長が答える。
「それじゃ、妹のクレアは見つけられないってことですかっ!」
「クリス、そう焦る必要はありませんわ。ここに子供たちがいるということは、この子供たちを誰かが最終的な目的地まで連れて行かねばならないということです。少し時間はかかるかもしれませんが、ここまできたら待ち伏せるしかありませんわね」
座長は腕を組む。
「ほら、お姉ちゃんたちが来たから、もう大丈夫だぞぉ」
子供たちも安心したのか、介抱するイザベラ姉さんに抱きついていた。
きっと、クレアも心細いに違いない。
「座長、僕にやらせてください」
少し考えていたが、座長は小さくうなずいた。
「分かりました。ですが、人選は後です。とりあえず、安全なところへ避難することにいたしましょう」
◆◇◆◇
僕たちは子供たちを連れて教会の外へと出た。
「まず、当面の監視をミアとクリスに任せます。子供たち全員の解放のため、敵のアジトを突き止めることを優先してください。決して相手に戦いを挑んではいけません」
「うん、分かった!」
元気にミアがうなずく。
「クリス、あなたも戦いを挑んではいけません。よろしいですね?」
「はい」
僕も座長に答える。
「公演を終えたばかりで、わたくしたちの装備も手薄です。レナとイザベラはわたくしと共に宿に戻って装備を整えましょう。マイラは子供たちの安全確保を。みなさま、それではお願いします」
座長の号令のもと、メンバーはそれぞれの指示を実行に移すことにした。
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