第27話 宴の後 その2

 結局、レナさんに連れられるまま、僕たちは旧市街地を歩く。

 到着したのは、やっぱりというか、思ったとおりというか、教会前だ。


「レナさん、どういうつもりですか!」


 もちろん、僕はレナさんに食ってかかる。


「さっきのオジサンの話、面白そうじゃないか。それにクリスを見てたら、せっかくの夜をこのまま終わらせるのはもったいないと思ってさ。今夜は肝試しといこうよ」


 レナさんはニヤリとする。


 これは悪いことを考えている笑顔だ。絶対、よからぬことに違いない。


「座長、今日は公演も終わったばかりだし、みなさんお疲れです。帰って休みましょう」


 僕は座長にすがるようにお願いしてみた。

 しかし、座長はレナさんの方を見て考え込んでいる。


「レナは何か面白い話を聞いたのですか? まぁ、そういうのも締めくくりの余興として楽しそうではありませんか」

 え? 何、その流れ。

「それではクリス、先頭を歩いてください」

「は? 僕が?」

「はい。聞こえませんでしたか? 先頭です。どうやら、みなさんも同じ意見のようですわよ」


 メンバーがニコニコしながら僕を見ていた。


 あれ? いつもみたいに、揉めたりしないの? 協力しないでほしいんだけど。


「さぁ、行ってみよう!」


 僕の気持ちを無視し、ミアが元気よく僕の背中を突き飛ばした。


「いや、ちょっと! ミア、押さないでって!」

「はいはい! 文句言わない!」


 僕の後ろにはミアが陣取り、歩くのを止めようとすると力いっぱい押してくる。


「ほら、立入禁止って看板がありますよ! 行っちゃだめなんですって!」

「はい! つべこべ言わずに行ってみよう!」


 やっぱり、ミアに押し込まれる。

 小さい身体なのになんて馬鹿力なんだ。

 何度か抵抗するも聞き入れられる見込みはなさそうだ。

 仕方なく、僕が先頭になって教会に入ることになった。



 教会の壊れかけの扉を開け、礼拝堂に入る。

 差し込む光はあるが、今日は月の光が少し暗いためなのか、中がよく見えない。


「やっぱり、暗くて危ないですよ。つまずいてケガでもしたら大変じゃないですか。今日はもう帰りま――、うわーっ!」


 僕は振り向いた直後にビックリして大声を上げ、尻もちをつく。

 そこにはイザベラ姉さんが胸元に小さな火の玉を浮かべていた。

 顔を下からぼんやり照らす灯りで、怪しげな微笑みを浮かべていたのだ。


「とりあえず、こういう灯りならすぐに準備できるんだが?」

「怖いから、そういうことして脅かすのは止めてください!」

「そんなに怖がることもないじゃないか。これ、さっきの舞台の前座で使った宴会芸用の炎の玉なんだからさ」


 うまく脅かしてやったとばかりに、イザベラ姉さんは嬉しそうだ。


 そうかもしれないけど、タイミングってもんがあるでしょ。それとイザベラ姉さん、立派な魔術師なのかもしれないけど、酒酔いプロテクトとか、風とか火の玉とか、今のところ宴会芸しか見たことないんだけど。それより、何? この連帯感。みんな、いろいろ喧嘩したりしてなかったっけ? 絶対、おもしろいおもちゃを見つけたって思ってるに違いないし。


 しかし、灯りを点けられると、残念だが足元も見える。

 こうなると、先に行かざるを得ない。

 仕方なく僕は先へ進んだ。

 当たり前だが、広い礼拝堂は誰もいない。


「ほら、誰もいませんよ。もう帰りましょうよ」

「ダメダメ。オジサンの話を思い出してごらんよ。こういうとき、うっかり呼びかける間抜けな行動が必要なんだって」


 レナさんが嬉しそうに、引き返そうとする僕を前へ押し出す。


 人を最前線に押し出しておいて、うっかりとか、間抜けってなんだよ。こういうときに呪われるのは余計なことするお調子者って決まっているのに、何でそんな役回りを演じゃなきゃなんだんだ? 役者でもない僕が。


 メンバーを見る。

 早くやれよ、って感じでニコニコしている。

 ため息をつき、覚悟を決めると呼びかけてみた。


「誰かいますかー」

「…………」


 静かに待つが、特に黒い影が動く気配もない。


「ほら、誰もいませんよ。もう帰りましょう」


 振り返ると、レナさんが嬉しそうに礼拝堂を指さす。

 確か、酔っぱらいの間抜けは、礼拝堂のところまで行ったんだよな。

 このままじゃ、礼拝堂の奥にある祭壇まで行かないと許してくれそうにないな。


 僕は舌打ちをする。


 あのオジサン、余計なこと言いやがって。

 仕方なく、祭壇の近くまでくる。

 すると、いきなり誰かが僕を突き飛ばした。


「うわっ!」


 瓦礫につまずいて、僕は大きな音を立てて祭壇の前で転んでしまった。


「何するんですかっ! ビックリするじゃないですか! レナさん、僕で楽しむのもいいですが――」


 抗議しようと僕が振り返る。

 レナさんが人差し指を口に当てて静かにするよう求めてくる。


『……か、い……すか……。……すけ……。だれ……た……て……』


 かすかに地面から声が聞こえる。


「えぇー!」


 僕が震えあがる。

 だが、レナさんが祭壇の前の床を叩いたり、散らばった砂を払って調べ出した。


「あの……、レナさん、聞こえてないんですか? 呪われちゃいますよ……」

「そのときは、イザベラのポンコツ魔法で何とかしてもらうさ」


 しばらくして、カチッと音がしたかと思うと、レナさんが床板をガバッと開いた。

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