第24話 アイリス劇団の公演 その3
再び、僕はアイリス劇団のメンバーと共に酒場に来ていた。
「姉ちゃん、この間はカッコよかったぜ。ぜひ、食ってくれ」
「この前は稼がせてもらった。これは、お礼だ」
僕たちがテーブルにつくと、次々と酒場の客たちがイザベラ姉さんに挨拶をしていく。そして、テーブルにはどんどんと料理が運ばれてきた。
「悪いわね、いただいておくわ。あんた、いい男だよ。今日は楽しんでね」
イザベラ姉さんは満足そうに、周囲に愛想よく振る舞う。
「なんだ? 賭けで勝っただけの男だろ? そんなのにヘラヘラしやがって」
ふて腐れながら、レナさんがテーブルの料理に手をつけようとすると――
「ちょっと、そこの脳筋女、いや、お子様バストの方がよかったかしら? あたしへの貢ぎ物なんだ。勝手に手を出すんじゃないよ」
「はいはい。イザベラが媚びを売って得たものなんか、食わねぇよ」
レナさんが舌打ちをして、そっぽを向いた。
それを見て、イザベラ姉さんは勝ち誇ったような微笑みを浮かべて満足そうだ。
「もう、そのぐらいでいいでしょう。みなさまも注文してください」
座長は女給のおばちゃんを呼ぶと、料理を注文していく。
そして、新たに料理が運ばれるとメンバーで夕食を楽しんでいた。
とりあえず、食べるものがあれば満足そうな、単純なメンバーたちだった。
僕は周囲を見るが黒い外套の男はいない。
後は昨日と変わらない、どこにでもいそうな客ばかりだ。
「今日もいないようだな、クリス。もう、夕食を楽しんだらどうだ?」
レナさんが心配そうに話しかけてくる。
「クレアがどこかで捕まっているかと思うと、のんきに食べていていいのかと思って……」
「そうは言っても、今はどうしようもない。いつ、どういう状況で戦いが始まるのかは分からないんだ。常に万全でいるためには、食べられるときに食べ、寝られるときに寝て、鍛錬を怠らないこと。今できることを、しっかりとやる。ただ、それだけだ」
「はい……、分かりました」
僕たちは夕食を済ませると、すぐに宿屋に戻ることになった。
戻ると、メンバーは明日の劇に向けていろいろ練習を開始する。
だが、僕はそのまま眠ることにした。
◇◆◇◆
「本日の夕刻、教会前にて、アイリス劇団の公演が行われます! みなさま、お越しください!」
昨日に引き続き、僕は案内の看板を持ち、周りの人々に声をかけながら町の中を回っていた。
メンバーは全員そろって朝から稽古を始めている。稽古が終わった後は個別の出し物の練習をするそうだ。結局、今の僕にできることは、こうやって宣伝をして回ることしかない。妹のクレアのことは気になる。でも、まだまだ弱い僕にはレナさんに頼るほかないんだ。
街中を回りながら、黒い外套の男も探してみる。
あの男がクレアをさらった証拠はない。だけど、座長も気にしていたようだし、何か見つかればいいんだけど……。
「本日の夕刻、教会前にて、アイリス劇団の演劇が行われます! みなさま、お越しください!」
声をかけながら、僕は町中を回ることしかできなかった。
◇◆◇◆
ついにアイリス劇団の公演の時間が迫ってきた。
後ろと両袖に布をバッと広げて舞台を作るだけの、かなり簡素な移動劇場。
これがアイリス劇団のステージだ。
本当に見に来てくれる人がいるのか不安だったが、開演の時間が近づくと少しずつ人が集まってきた。酒場で少し騒ぎを起こしたせいか、どこかで見たオジサンたちが仲間を連れて嬉しそうに集まっていた。
「おう、兄ちゃん、来てやったぜ。飲んべえの姉ちゃんも出るんだろ? 楽しみにしてるよ」
「はい。飲んべえの姉ちゃんじゃなくて、イザベラ姉さんですけどね」
「酒豪の女神? いや、勝利の女神か。とにかくいい女に会いに来てたぜ」
「あ、そうですか。イザベラ姉さんも出演予定ですよ、そちらへどうぞ。あ、見物料もお忘れなく」
なんとなく苦笑いを返すが、オジサンたちにはお構いなしに嬉しそうにしている。
それでも、なんだかこの町に受けいれられたようで、ちょっと嬉しい。
観客席はいっぱいになりつつあるがステージの裏では、まだメンバーが最後の調整を行っている。僕には担当する配役はないので客席を回り、見物料を徴収していた。
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