第14話 酒場 カイラス その2

 宿屋の外に出たが、特にすることもない。しかたないので、僕は適当な場所に腰を下ろした。空を見上げれば、まだ日は高い。酒場が開くにはまだ時間がありそうだ。何もできないままに時間を過ごした。


 僕がもっと強かったなら、このまま酒場に乗り込んでやるんだけど。だけど、僕には何もできない。何にもできないんだ……。


 僕は自分の手を見て、首を横に振る。


「どうしましたか? 自分の力が信じられませんの?」


 後ろから、座長が声をかけてくる。


「もう、終わった――、えぇ?」


 振り返ると、座長はほっぺたを膨らませて、まだ拗ねていた。


「ひょっとして、お気に入りのベッドの場所は――」

「過ぎたことですっ。わたくしは過去を振り返らず、こだわらない超絶前向きな女なのですわよ」


 いや、絶対こだわってるし。


「僕からもミアに話を――」

「終わったことです」

「あの、今からでも――」

「終わったんですっ! とにかく、ベッドのことはこれで終わりですっ!」


 取り乱しながら声を荒げた後、一度、座長は深呼吸をする。


「――それより、後悔があるのですね。だからこそ、強くなりたい、と」


 僕は手を見る。


 もっと強ければ、座長たちにお願いする必要もない。だけど、ヤツの剣は全く見えなかった。気がつけば、無防備。僕が爺ちゃんから学んだ剣なんて、役に立たなかったんだ。弱いヤツが強がったところで、どうにもならない。


「僕なんかじゃ、全然ダメなんです……」


 盗賊に襲われたことが思い出され、少し手足が震えてきた。


「それで、可能性までも閉じてしまわれるというのですか?」


 可能性――。爺ちゃんや婆ちゃんを殺されて、クレアを取られて。


「本当に、本当に僕にもそんな可能性があるんでしょうか?」


 座長はじっと僕の目を見る。


「その意思があるなら、きっと扉は開かれるのではないでしょうか」 


 クレアを助けたい。だけど、今の僕にそんな強さはないだ。でも、せっかく力を貸してくれる座長たちの迷惑にもなりたくない。


 僕は視線を落とす。


「盗賊がいるとわかっていながら、それでも、クレアさんのために行動できてではありませんか。資格は十分だと思いますわ」


 現実は現実だ。強くなりたいなんて、偉そうなことは言えないけど、可能性が広げられるというなら――。


「そうかもしれません。それなら、是非お願いします」

「だそうですわよ、レナ」


 そう言って、座長は振り返る。


「相変わらずですねぇ、座長は。クリスの決意なんか、わざわざ私に聞かせなくても大丈夫ですよ」


 物陰からレナさんが現れた。


「これからは時間が空いたとき、レナに剣を学ぶといいでしょう」


 座長は空を見る。


「どうですか。酒場が開くまで、少し時間がありそうです。早速始めてみては?」


 もっと僕が強ければ助けられたはずなんだ。本当にできるというなら、ぐずぐずしている場合じゃない。もちろん、今すぐにでもお願いしたい。


「はい!」


 僕は座長の目を見て返事した。

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