第12話 街へ その4
領主代行の屋敷を離れ、僕たちは町を散策していた。
許可の必要のない場所で公演ができないものかと探してみたが、適当な場所が見つからない。よさそうな場所を見つけたと思っても、すべて領主代行の許可を取らなければならない場所ばかり。結局、状況は振り出しに戻ってしまう。
レナさんもすっかり探し疲れてしまったようだ。
「座長、何か他に策はないんですか?」
「策と言われましても、あの頭の固そうな守衛では何を言っても無駄でしょう。残念ながら、地道に場所を探すしかないと思いますわ」
確かに、あの守衛の様子じゃ、説得も難しいだろう。でも、実際、急に見ず知らずのよそ者に来られて領主代行に会わせろと言われても、何をされるか分かったものじゃない。僕が守衛の立場だとしても当然といれば、当然の反応だ。
何の解決策もなく、いい場所はないものかと歩いていると、僕たちはにぎやかな街並みを抜けていた。
同じカスターの町でも建物が壊れかけ、道路は荒れたまま。住宅地に人がいたと思えば先の戦争で障害を負ったと思われる者たちが、建物の中から冷たい視線で僕たちを見ていた。周囲を色々と歩いてみるが、人通りもほとんどない。
少し離れた丘の上には、かつてそこに大きな城があったと思われる跡があった。その城跡の城壁は崩れ、内部の建物も壊れかけて放置されていた。守衛の者がいなければ、領主と関わりがある場所とも思えない。この辺は町の繁栄から取り残されており、未だに戦乱時代の痕跡を生々しく残っていた。
「ここは……」
僕は歩きながら、建物内の人たちに目線を合わせないように周りを見る。
「今までのところを『新市街地』とするなら、こちらは『旧市街地』ってところですわね。あの丘の上の城を中心に栄えていたということでしょう。この町の急激な発展は戦乱後の町を作り直すのではなく、全てをなかったことにして、新しく作ることで生まれたのですわ」
「それじゃ、この人たちは……」
「旧市街地同様、見捨てられてしまったのでしょう」
ぐっと拳を握る座長。
「座長、先を急ぎましょう」
「そうしましょうか」
レナさんに促され、座長は他の場所を探すことにした。
そして、旧市街地を歩きながら、僕たちは朽ちた教会の前にたどり着く。
その教会の前には新市街地と同じように荒れてはいるものの広場があった。
そこでも、かつては領民に何かを伝えたり、イベントを行っていたと思われる。
「新市街地の教会と同じもの……、ですかね?」
「そうですわね。きっと、この教会を模して新しく作られたのでしょう」
僕の言葉に座長が答える。
広さは十分だ。新市街地の教会前で公演ができるというなら、ここでもできるのだろう。だが、ここに人が集まるのだろうが。新市街地の人達は旧市街地を放棄したんだ。そんな人達が、わざわざここに演劇を見に戻ってくるとは思えない。
「座長、今日のところは戻りませんか? 残念ですが、この周辺に演劇をするのに適当な場所があるとは思えません」
「そうですね、レナの言うとおりのようですわ。ひとまず、戻ることといたしましょう」
僕たちは教会の前から離れることにした。
ため息をつき、レナさんが残念そうにする。
「しかし、座長、許可が取れないとなると、この町での公演は難しいですね」
「はい。先ほどの守衛が言っていたように、この町からすれば、わたくしたちは『よそ者』。そう簡単にはいかないでしょう。――ですが、わたしたちには場所の確保より、もっと大切なことがありませんか」
「もっと大切?」
会話に割って入った僕の疑問に座長は足止めると、前方の看板を指し示しながらレナさんの方を見た。
「カイラス……、あっ!」
思わず、レナさんが大きな声を上げる。
見ると、そこには酒場と思われる建物があり、看板が掲げられていた。
僕たちは座長が示した酒場へ行くが、時間が早いためか店は閉められていた。
閉まっていることからレナさんは、舌打ちをしながら中を覗こうとしていた。
「ここに何があるんですか?」
僕の質問には答えず、レナさんは周囲を確認する。
「一度、ここを離れましょう」
レナさんが促すと、座長も納得する。
「そうですわね。どういう場所なのかもわからないまま、ここでお話に興ずるというのもよくありませんわ。見たところ、閉店というわけではなさそうです。酒場ですから、夜にでも出直すことにいたしましょう」
僕たちは足早に離れると、ミアたちと合流することにした。
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