第6話 ちいさな勇気が導くもの その4

 声がする方を見ると、金髪の女の子がこちらに手を振って走ってきていた。動きやすく簡素化されているものの少女はドレスのような服装で、頭の両脇で結ったツインテールの髪を振り乱しながら走ってくる。服装もそうだが、全身からは高貴なものを感じさせるものの、走る姿はどこかやんちゃな可愛らしさも出していた。


「座長! 何してるんですかっ! おとなしくしていてくださいと言ったじゃありませんかっ!」

「レナはずるいですわ! そんなの、面白くありません! みなさんが楽しんいるときに、わたくしだけ指をくわえて見てろとでも言うおつもりですの? わたくしも仲間に入れてほしいのです」

「面白いとか、そんなの関係ありません! 立場をわきまえてください! 盗賊の盗伐など、座長を入れてやるものではありません!」

「あーっ! 言いましたわね! わたくしを仲間はずれにすると、そういうことですか! そういうことなら、わたくしも考えがあります」


 座長と呼ばれた女の子は、プイとそっぽを向く。


「まったく……、何を拗ねておられるのですか。我々の目的をお忘れですか?」

「それは分かっております。……ですが、道中、楽しみもなければ……、グレてしまいます」


 そっぽを向いたまま、頬を膨らます。


「――それ、ただの反抗期じゃないですか」


 レナさんは額を押さえて力なく首を横に振る。


 盗賊を簡単に倒してしまうような凄腕の持ち主たちとは思えない緊張感のない軽い人たち。このやり取りだけを見て、旅芸人と言われれば納得もできる。


 ふと、僕は拗ねたままの座長と呼ばれた女の子と目が合った。


「で、レナ。この少年は確か――」

「あっ、そうでした。座長がウザいことを言うから、忘れていたじゃありませんか」

「ちょっと、聞き捨てならない発言がありませんでしたか? わたくしがウザいですって?」

「はいはい、分かりました。話が長くなるので、お叱りの言葉は後で。それで、君は?」


 軽く流すと、座長は口をあんぐり開けて固まった。

 僕は「放置しても、いいんですか」という風に座長を指さしてレナさんに見せるが、レナさんは苦笑いしながら軽くうなずいて続きを促してきた。


「えっと、この前は助けていただいて本当にありがとうございました。あの日、行商をしている僕たちは盗賊に襲われ――、それで、本当の子供のように育ててくれた爺ちゃんと婆ちゃんは殺されてしまいました」

「そうか。間に合わなくて、すまなかったな」


 レナさんは少し悲しそうな目をする。


「いえ。そんなことはありません。僕に力がなかっただけですから。それより、あの日、妹のクレアがさらわれてしまいました。ですが、まだクレアは助けられるはずです。本当なら、僕が助け出すべきなんです。――でも、僕には力がありません。助けてもらっていて、都合のいい話なのは分かっています。それでも、お願いします。妹のクレアを助けてください!」

「その……、私たちはただの旅芸人だから、助けると言っても――」

「いや、そんなことはないはずです! ただの旅芸人が、盗賊をこんなにあっさり倒せるはずがありません。僕だって……、僕にだって、剣を持つことはできました。でも、怖くて、体が動かなくて……」


 僕は未だに震えている両手を見る。


「みなさんの強さに、どういった事情があるのかは知りません。でも、他に頼める人はいないんです。今の僕にはどう頑張っても無理ですから……」


 ぐっと奥歯をかみしめる僕に、レナさんは困り果てたような表情をする。


「それで、どこに囚われているか分かってるのか?」

「いえ。先ほどの盗賊の馬車にいるかもしれないとも思いましたが、――いませんでした」


 僕の話を聞き、レナさんは少し難しい顔をする。


「協力してあげたい気持ちはあるが、居場所がわからないのでは対処のしようがない。残念だが――」

「ちょっと待った!」


 急に右手を挙げて、座長が大声を出す。

 思わず、レナさんが舌打ちをした。


「なんですか、座長! 私たちでやれることはやります。話が面倒になるから、思い付きで余計な口出しはしないでください」

「は? 思い付き? 余計な口出し? というか、それ以前に、今、舌打ちなさいましたわよね、レナ。最近、わたくしに対する発言が厳しすぎますわよ! わたくしを誰だと思っているのですか!」

「座長は座長。一座の座長ですよね? 一時期は、カッコよさそうだからと『団長』『ボス』『グレートマン』だとか、思い付きでよくわからない呼び名で呼べと恥ずかしげもなくおっしゃっていましたが、みんなに抵抗されて、渋々、納得されたじゃないですかっ!」

「あわわ……、そういう内部事情まで、恥ずかしいから事細かに説明しないでください。そうではなくて、レナからそこはかとなく感じさせるものが、一段も、二段もわたくしを下に見るといいましょうか、どこか面倒なものを扱うような、そういうものを感ぜざるを得ないのですけれども?」


「気のせいです」


 ちょっと気まずそうに、レナさんは目線を逸らせてから続ける。


「そ、それに、座長も親しく接して欲しいと言ったではありませんか」

「友と同じように親しく接して欲しいとは言いましたが、雑に扱えとは頼んでいませ――。いや、今はそういう話ではありません! 仕切り直しです。いいですか、レナ。今回のわたくしたちの目的は何ですか?」

「はぁ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る