第2節 ちいさな勇気が導くもの
第3話 ちいさな勇気が導くもの その1
僕が目覚めると、見覚えのない、どこかの部屋のベッドの上だった。
なんだか頭がくらくらして、記憶が混乱している。
これまでのことを思い出そうとしてみた。
ものすごい不快感に、思わず目を背ける。
「あれはいったい……」
上半身を起こすと、身体を確かめてみる。
特に傷や痛みはない。
「そういえば!」
急いで周囲を見るが、何もない部屋には僕だけ。
いつもならいるはずの、クレアや爺ちゃんたちの姿もない。
だが、夢ではなさそうだ。
全身に残る、この嫌な感覚。かなり殴られたはずだ。
なのに、体に異常がないなんて、回復魔法でもかけられたんだろうか?
それなら、いったい誰が……。
ベッドの脇には、短剣があった。
抜けなかった剣――。
ふと、手を伸ばしてみる。
殺された爺ちゃんと婆ちゃん。
連れ去られた妹のクレア――。
少しずつ記憶がよみがえってくる。
「クソ! こんなもの!」
床に叩きつけようと短剣の柄をもって、勢いよく振り上げる。
すると、スポンと鞘が抜けて刀身があらわになった。
「なんだよ、今ごろ抜けるなんて……」
拍子抜けで、なんだか気持ちが落ち着いてしまった。
こんな短剣でも、今となっては爺ちゃんが持たせてくれた最後の形見だ。
その短剣を見る。
短剣というよりは大きめのナイフといった程度。柄頭にはガラス玉のようなものがつけられている。そして、その刀身には、何語なのかもわからない不気味な文字が彫り込まれていた。なんとなく普通じゃない感じがする。
僕はベッドから降りて、短剣を構えると何度か振ってみる。
だが、何かの魔法が発動するような様子はまるでない。
さすがに、短剣が勝手に守ってくれることはないか。だとすると……。
ハッと思い出し、僕は急いで部屋を出ると走り出した。
僕はあの人に会わなきゃいけない。お礼も言わなきゃ。
部屋から出ると、他にも似たような部屋があることから、僕がいた場所は宿屋ということが分かった。そして、受付には宿屋の主人と思われる老人がいた。
「あの女の人はどこですか? ほら、赤毛の若いきれいな女の人がいたでしょ」
駆け寄ると、大きな声で質問した。
老人はゆっくりとこちらに振り向くと、不思議そうな顔をする。
「ん? 君は……、ああ、二〇一号室のお客様かな?」
「だから、その、僕と一緒に来たはずの、赤毛の女の人はどこですか?」
「まあまあ、そう焦りなさんな。ちゃんと宿代はいただいておるよ」
「そうじゃなくて。――いや、それも大切なんだろうけど、その女の人はどこに泊ってるんですかっ!」
「あの女性なら、泊まってはおらんよ。旅芸人の一団のようじゃったからな。君を置いて、お連れさんとすぐに行ってしまったわい。お題は十分に頂いておるから、ゆっくり――」
「あんなに強い人が旅芸人なんてはずは――」
そうだよ。どこかの武術や剣技の達人に違いないんだ。
爺ちゃんだって倒せなかった、あの盗賊たちを倒してしまうんだから。
急いで僕は宿屋の外へ出ると周りを見る。
だが、さすがにそれらしい女性の姿は見当たらなかった。
爺ちゃんたちは――。
僕は強くかぶりを振る。
だけど、クレアはさらわれただけだ。まだ間に合うはず。
受付に戻ると、再び老人に詰め寄った。
「どこの旅芸人の方なんですか?」
「そんなことは分からんよ。でも、カスターの町の方へ向かっていったなぁ……」
受付の老人は髭を触りながら思い出していた。
「ありがとう!」
ここでジッとしているわけにはいかない。
僕は支度をすると、すぐにカスターへ向かって出発することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます