第21話:StG44、これが噂の新型歩槍か?
組み立てられた
風もなく、静かな夜だ。実に都合がいい。
「いきますぞ、点火ぁっ!」
相変わらず凄まじい音を立てて、六連装の発射筒から
「……おお~、吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ。ありゃ、弾薬庫に誘爆したな」
「ああ~っ! 僕の、僕の愛する
火柱を上げる兵器
「遊んでいる暇はないぞ、次の一波装填!」
「ほいさぁ!」
「
嬉々として次の弾を準備し始めるハンドベルクとノーガン。
間髪入れず、再び六発の火の玉が凄まじい音を立てながら、既に瓦礫になりつつあるレンガの建物をさらに吹き飛ばしていく。
「ご、ご主人さま、いいの? あんなことしちゃって……」
「いいんだよ。お前は俺を信じてついて来るんだろう?」
あえて笑ってやると、エルマードは一瞬ためらってみせたあと、微笑み返し、うなずいた。
「よし。分かったら次だ」
「ねえ、ご主人さま?」
「どうして、戻るようなことをするの?」
先の
「
「どういうこと?」
「オシュトビッツまでの順路そのままに攻略していけば、その先が見えてしまうだろう?」
俺の言葉に、エルマードは納得したらしい。ぎゅっと、しがみついてくる。
「……ご主人さま、それで、ボクを置いてかずに、連れてきてくれたわけは?」
「何を言っている? お前を今まで、置いていったことがあったか?」
「あったよ。砦の時」
言われて苦笑する。そういえば以前、エルマードを、狙撃班の補佐に配置して後詰めに回したことがあったか。
「それに、リィベルちゃんはこっちに連れてきてないもん。まっすぐオシュトビッツに向かわせてるよね?」
「あの子は戦闘要員じゃない。だがエルマードは、俺の頼もしい戦友だからな」
「戦友……?」
いぶかしげに問い直すエルマードに、俺は笑った。そこを気にするのか。
「何より、大事な従者だ。そして従者は主人を助けるものだ、そうだろう?」
「あ……うん!」
背中に顔をこすりつけてくる。うれしかったようだ。そういうところもまた、愛らしい。
彼女のぬくもりを感じながら、俺は並走する仲間たちに声をかける。
「ロストリンクス! あとどのくらいだと思う!」
「このまま、休憩込みで走り抜けるとして、今晩には着くかと!」
「爺さん! 体力はもつか!」
「そう思うならもう少し、年寄りを労わる行程を提案せんかい!」
「よし、減らず口が叩けるなら、まだ大丈夫だな!」
「まったく、我らが隊長殿はこき使うのがお上手で!」
「分かった! お前は
「やれやれ! 女の子も
「だったらフラウヘルト! 噂によると次の
「報酬が現地調達って、それ蛮族のやり口ですよっ!」
「いいんだよ! 昨夜の
昨夜の
いいように解釈すれば、
今回の襲撃目標はヘーネル兵器
だが、噴進弾はその性質上、どうしても軌道にブレが出る。館も含め、やっぱり周りはとんでもないことになっていた。
昨日の今日で警戒情報が流れていたらしく、兵器
俺たちは館近くの茂みに集合した俺たちは、
俺とロストリンクスはヴィッカース・ベルチェー
「よし、そろそろ遅延発動の最後の一波が来る。巻き込まれないように、頭上の注意を怠るな」
ロストリンクスの言葉に、全員がうなずく。
「それにしても連中、自分たちを襲った火の玉が
「なんせワシの渾身の新作じゃからのう!」
俺の言葉に、得意げに髭をなでるハンドベルク。
確かに、
「そういうのって、分からないものなの?」
不思議そうに聞いてくるエルマード。
「
なかば瓦礫と化してしまった館の周りのあちこちで、青白い光の壁が展開され始める。エルマードが指を差して聞いてきた。
「あれは?」
「法術に対する対抗呪印だ。あの壁に触れると、法術によって生成された現象がかき消されてしまうのさ。戦場で法術が廃れた原因だ。しかしこの壁は、弾丸や
青い光の壁は、あくまでも法術によって生成された現象を中和してかき消すものであり、飛来する鉛の弾や、撃ち出されて飛来してくる
そう。
凄まじいうなりを上げて飛んでくる、遅延発動した最後の一波!
あの攻撃は、連中が展開した青白い光の壁を、こともなげに粉砕するのだ!
まずは一発──ちょうど法術の対抗呪印が展開されていた光の壁を、何事もなく貫き炸裂する!
爆発音、ここまで届く衝撃、悲鳴と怒号!
さらに次々に飛来する火球に、連中の混乱が加速する。
「総員騎乗!
雨あられと飛来する火球に、もはや現場にとどまる警備兵などほぼいなかった。実に都合がいい。
「俺たちの姿を見せつけろ! さらけ出せ! ──総員突撃!」
第四波の攻撃で、ついに警備兵たちは現場を放棄したらしい。俺たちは広い
その瞬間、
「うわっ、誘爆したか! ──エル! 無事か!」
「ボクは大丈夫!」
その声に安心しながら、ヴィッカース・ベルチェーを意味もなくぶっ放す!
そろそろ弾切れかと思ったとき、エルマードが崩れた壁の奥から、いくつもの木箱があふれてきているのを見つけた。
「ご主人さまっ! あれ!」
駆け寄ってみると、それは
燃え上がる炎の中で黒光りするそれは、しかし見たことのない形をしていた。形状からすると、どうやら
だが、そばには付属品と思しきスコープも落ちている。
「なになに……? StG44──
一つ、手に取る。ずっしりとくる重さ。そばに落ちていたやや湾曲した弾倉を装填する。引き金を引くと派手な音と共に連射できたが、ヴィッカース・ベルチェーとは違って比較的反動が小さく、扱いやすく感じた。ほぼ直線の
「……これはいい。エル、お前も使ってみろ」
そう言って持たせてみたが、エルマードにはやや荷が重いようだった。単発式の
「まあいい、これは使えるぞ。エル、いいものを見つけてくれた」
「えへへ……ご主人さま、お役に立てた?」
「ああ。実にいい拾い物だ」
その時、「隊長、何してるんです!」と、反対側から駆けてきたのはフラウヘルトだった。その後ろから、さらに発法音が響いてくる!
「ケツ喰われてます! しつこいのが可愛いのはカワイコちゃんだけだってのに!」
「お前っ……! クソッ、エル! そこの陰に隠れろ! 迎え撃つ!」
俺はヴィッカース・ベルチェーを構えると、フラウヘルトの後ろから追ってくる連中に向けてぶっ放す!
「うわっ! 隊長! かすりましたよっ!」
「俺じゃない、後ろからだろ!」
「隊長の弾ですって! 僕を殺す気ですか!」
わめきながら飛び込んできたフラウヘルトに、新型
「ほら、新型だ! 付属品にスコープもある! 適当に拾って使え!」
「拾ったばかりのスコープなんて、調整もクソもないですから使えませんよっ!」
「だったらまた今度調整しろ! 今は奴らを追い散らせ!」
「ああもう!」
わめきながらStG44をぶっぱなし始めるフラウヘルト。
「……これはいいですね、反動が小さいから狙いやすい! 狙撃に使うにはちょっと短射程ですけど!」
「いいからぶっ放して追い散らせ!」
言いながら、防御用の
しばらくの沈黙のあと、破裂音と共に付近の瓦礫に何やら飛び散る音。
「……おいおい! 遮蔽物がなかったら、下手したら俺たちまで死んでるぞ! なんて物騒なものをこしらえたんだ、ハンドベルクの奴!」
だが、これで向こうさんは沈黙したらしい。
「よし、今だ!
「待ってくださいよ! こんないいもの、捨てていくのは惜しいです!」
そう言って、フラウヘルトが
「重いものを持ったら動きが鈍くなる! せめて弾は置いていけ!」
「だめですよ! 見てください、これは明らかに通常弾ではないです! おそらく専用に作られた
「死にたいのか!」
「報酬は現地調達、隊長が言ったんですからね!」
あきれる俺に、「ほら、隊長も! 後で良品を選別しますから、
結局、持ちきれない分はで処分することにし、脱出した。
だが、StG44の木箱が雪崩れてきている壁の向こうを確認することもなく、適当に
どうも壁の向こうには出荷待ちの
いや、本当に、今度こそ死ぬと思った。なにせ、全力疾走中の
俺とエルマードの二人を乗せ、さらに弾薬箱まで背負わせてしまったうえで走り切ったヴィベルヴィントの奴には、あとで美味い餌をたらふく食わせてやろう。
「あの誘爆は、隊長のせいですからね。貸しですよ」
「あんな誘爆をするなんて、誰が予想できるかっ!」
煤だらけになった俺たちを出迎えたのは、一足先に脱出していた面々だった。
「……さすが隊長ですね。恐ろしいお人だ」
ロストリンクスが、いまだに誘爆が止まらず爆発が止まらない──飛び散った先でさらに爆発を続ける地獄絵図を描き出す元
「だって、ボクのご主人さま、だもんね」
なぜか妙に誇らしげなエルマード。
「ワシのことを爆弾魔とか呼ぶ隊長の方が、よほど爆破魔じゃのう」
ハンドベルクも、実に楽しげに笑う。
いや、本当に偶然なんだっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます