第2話 プロゲーマー

 例のメールが来てからはや2日、話はとんとん拍子に進み、5日後都内の某喫茶店にて正式な書類を通した契約をすることとなった。一通りのやりとりを終え机のエナジードリンクを一口飲む。


「あ、そういえば…」


 俺は思い出したかのようにパソコンを開き、動画投稿サイトで検索をかけた


【プロゲーマー 大会映像】


「よく考えたら俺プロのプレイなんて見たことなかったからな、見ておかないと。」


 俺は常に対チーターを意識したプレイングを心掛けていたため、対プロを意識してプレイするプロの映像はそもそも見る必要がなかったのだ。俺はなんとなく上から3番目の動画をクリックした。


【ZERO 無敵すぎる男の最狂プレイ】


 タイトルからしてヤバすぎる雰囲気の動画だ。15秒の広告を終え、動画が再生された。去年の世界大会決勝、このラウンドを取ればZEROが所属するプロチームelectricが逆転という場面だった。


 フィールドは市街地。相手チームがビルの屋上を占拠しており、electricはその一個下の屋内フロアに立てこもっていた。屋上に繋がるドアは一つしかなく、相手チームの3人はそのドアに完全に照準を合わせていた。


「上がれば蜂の巣、待ってても安置に飲まれて終わりだ!どうするZERO!」


 冷静であるべきのプロですら声を荒げるこの状況、チームのオーダーを務めるZEROはただ1人戦況を見定めていた。


「まだだ!!!!安置限界まで扉を開けるな!!」


 オーダー。言葉くらいは聞いた事があった。複数人でチームを組みプレイするFPSにおいて、そのチームの動きを全て指示する、チームの頭脳。どれだけ打ち合いが強いチームでも、オーダーが弱ければ全てが台無しになる程重要な役職らしい。


「いやでも流石にこれは…」


 ソロプレイしかした事がない俺でもわかる。この場面はどんなに上手いオーダーがいたとしても打開は不可能だ。そう思っていた。


 画面は屋上で待ち伏せる相手チームに移る。相手チームも最後の最後まで油断する事なくショットガンを扉に向け安置が近づくのを待っていた。そして運命の時。安置が最終フェーズに移行したその瞬間、下のフロアで手榴弾らしき爆発音。刹那、electricが白煙と共にドアを蹴破った。


「来た!!!全員撃て!!!!」


 相手チームは一瞬で反応し同時に発砲。瞬く間にelectricのメンバー2人のキルログが流れ、electric決死の特攻は失敗に終わったかと思われた。


 3人目のキルログ、名前はACE。相手チームのプレイヤーの名前だった。ZEROがいない。気づいた時にはもうすでに遅かった。直後、残り2人の相手チームのプレイヤーの名前が続き、残りプレイヤー数1人と表示された。


【champion】


 立ち上る白煙の中から現れたZEROはハンドガンを上に掲げ、天に発砲した。もう片方の腕にはフックショットが装備されている。あまりに衝撃的な最後に会場が一瞬静寂に包まれた。


「……………うおおおおおお!!!!!!!!」


 直後会場が壊れんばかりの大歓声が上がり、動画は先ほどのリプレイに移った。俺は屋上に突如現れたZEROのプレイを注意深く観察した。


 画面が相手チームに切り替わった直後、ZEROはバックパックからスモークグレネードと手榴弾、そしてフックショットを取り出した。そしてチームメンバーに指示を出す。


「安置が最終フェーズに移行した瞬間、お前ら2人でスモークグレネードをたいてドアを開けてくれ。お前らの命と引き換えに、俺が必ず優勝を取ってくる。だから、俺に賭けて死んでくれるか?」


 2人は迷う事なく返答する。


「了解。」


 そして最終フェーズ以降の瞬間、スモークグレネードと同時に窓に向かって投げられた手榴弾はフロアの窓を粉砕。その爆音に乗じてZEROは割れた窓からフックショットで屋上に着地。気付かれる事なく相手チーム3人の背後を取ることに成功したのだ。フェーズ以降からここまでたったの3秒。異次元すぎるプレイに俺は完全に魅せられてしまった。


「これがプロの世界…」


試合後のインタビューでZEROはこう語っていた。

‘世界一になったお気持ちはいかがですか?’


「俺たちならなれるって分かっていたよ。俺は世界で一番俺とチームメイトを信用しているからね。」


‘今回の勝利の一番の要因はなんですか?’


「チームメンバーさ。チームメンバーがいなければ優勝はできなかった。でもチームメンバーも俺がいなきゃ優勝は出来ていなかっただろうね笑」


‘これを見てる全世界のゲーマーに向けて一言お願いします’


「会場で、映像でこのインタビューを見てる君。人生が変えるために必要なことは一つだけ。夢を見ることだ。俺たちは夢の先でいつまでも君たちを待っている。」


 インタビューはその回答で締めくくられ、動画もここで終わった。


「夢…か。」


 今まで考えたこともなかったその言葉に、俺は今の自分を重ねた。親に頼りきり、何もしてこなかった30年間。プロ契約はそんな俺に与えられた最後のチャンスのように思えた。


「俺はゲームで…人生を変えるんだ!!!」


 そう決意した瞬間、俺に生まれて初めて夢ってやつが出来た。


「ZERO…俺はあんたを倒して世界一のプロゲーマーになるッ…!!!」





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【Be legend】〜チーター蔓延るクソゲーを10年間やり続けた俺が無名のプロチームに入り世界一になるまでの話〜 山有谷有 @yamaaritaniari

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