【Be legend】〜チーター蔓延るクソゲーを10年間やり続けた俺が無名のプロチームに入り世界一になるまでの話〜
山有谷有
第1話 サービス終了
チーター。
ゲームの内部データを改竄し、本来不可能な挙動を可能にする事で獲得した理不尽な強さで他プレイヤーを蹂躙する、いわばゲームの癌だ。
自粛期間を期に発生した空前のFPSブームから10年弱。あの頃リリースされたゲームのほとんどはチーター達によって無法地帯と化し、次々とサービス終了を発表していった。
そんな中、10年経った今でも細々とサービスを続けるFPSがあった。
超大人数型バトルロイヤル【Be legend】。株式会社fixerが手掛けるこのゲームは、自粛期間初期のリリース直後、多くの配信者がプレイ動画を配信しかなりの盛り上がりを見せた。しかしこのゲームにもチーターの魔の手が伸び、みるみるうちにプレイヤーは減少。残ったのは大勢のチーターと変態的なファンのみとなった。
そんな地獄のような戦場にただ1人、しっかりと地面を歩き、球を曲げず、透明にもならないにも関わらず、毎ゲーム30キル以上を重なるプレイヤーがいた。
これは、チーターを狩り続けただけのただのニートが、無名のプロチームにスカウトされ、世界一を目指す物語。
〜You are legend!!〜
「よし、、、今日は10試合でチーター300人くらいか。」
見慣れたチャンピオン画面を横目に今日遭遇したチーターらしきプレイヤーの人数をざっと振り返る。このゲームは1試合につき100人が参加するので
ざっと1試合30人くらいの計算だ。
「俺がボコしたチーターが全員萎えて辞めていけば新規のプレイヤーも入りやすくなるだろ!!」
そう考えながらかれこれ8年ほどチーターを毎日狩り続けているが、減るどころか増え続けるばかりだ。おそらく一度に大人数を薙ぎ倒せるこのゲームはチーターにとって良いストレス発散道具なのだろう。
「今日はこれでやめるかあ、」
そんなことを考えながらいつものように開いたSNSで、俺は生まれてから1番のショックを受けるなんてこの時は考えてもいなかった。
「、、、え?!?!【Be legend】サ終?!?!」
俺は株式会社fixerの公式アカウントのお知らせを五度見した。
〜いつも弊社のゲームをプレイしていただき誠にありがとうございます。この度、新ゲーム開発の影響で、弊社のFPSゲーム【Be legend】のサービスを終了させていただくこととなりました。プレイしていただいていた皆様、大変申し訳ございません。今後とも弊社のゲームをよろしくお願い致します。〜
確かにいずれこうなることは分かっていた。あんなチーターだらけのゲームに新規プレイヤーが参入するわけがない。
「分かってた。分かってはいたけど…つらいな」
思えば俺、本条つばさはこの約10年の間、ほとんどの時間を【Be legend】に費やしていた。生活費は親の脛をかじっていたのでもちろん仕事もしていない。
「…これから何しよ、」
そんなことを考えていると、スマホの画面上部に母からのメッセージ通知が現れた。
「つばさ、誕生日おめでとう。」
あ、そういえば今日は俺の誕生日か。祝うことも祝われることもとうの昔になくなってしまったためか、自分でも曖昧になっていた。自分ですら忘れていた誕生日を母さんが覚えてくれていたのは素直に嬉しい。
「今年で30ですね。世間では立派な大人として認識される年です。生活費はそろそろ自分で賄えるようになりなさい。ひとまずバイトでも良いから手に職をつけてね。仕送りは今月で終わりです。」
「え、」
思わず声が出た。いや、サ終と同じくいずれこうなることは分かっていた。30歳でニートしている俺の方が悪いのは明らかだからだ。だが流石に話が急すぎるし、何よりサ終とのダブルパンチに脳の処理が追いついていない。
「はぁぁぁぁぁ…」
深呼吸も兼ねた人生で最も大きいため息をついた後、ぼそりと呟いた。
「仕事、探すか…」
重い腰をあげ、俺はメールアプリを開いた。派遣バイトのサイトに登録だけはしていたため、数千件の通知を貯めていたメールアプリの中にはたくさんのバイトの求人が届いていた。きつそうな求人を読み飛ばしながら下にスクロールしていると、2日前に気になるメールが届いていた。
【プロチーム加入のご相談 ウイング様】
ウイングというのは【Be legend】のユーザーネームだ。名前のつばさを英語にしただけだが、結構気に入っている。
「プロチーム…?」
ゲームのユーザーネームを宛名にしている事から、おそらくゲーミングチームへの勧誘だろう。自分がプロとして勧誘されることにとてつもない違和感を抱きつつ、メールを開いた。
「ウイング様、この度貴方の【Be legend】のモンタージュを拝見致しました。その圧倒的なプレイスキルを新しくリリースされるプロ用FPSゲーム【giant beasters】にてアンノウン所属のプロゲーマーとして発揮していただけないかと思いご連絡させていただきました。賃金に関してですが、契約金年間100万円に加え大会等の賞金の9割贈与を保証致します。お返事お待ちしております。」
「年間100万+賞金…?!?!」
大好きなゲームがサ終し、親に仕送りを止められ1ヶ月後の生活すら怪しい俺に残された選択肢は一つしかなかった。
「ぜひやらせてください!!!!!!!!!!」
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