日常と暗転。
もはやこれは、失恋と言って過言ではない。
辛い。
失恋ソングを聞き、たえまぬ苦しみと闘う。
波打ち際に赴き、感傷に浸ったりする。
……ものの数分で磯臭さに気分が悪くなって領地に帰る。
「ぬおおお……」
自慰する気にもなれず、ベッドで悶々と過ごす。
しかし当然の摂理として夜は明け、勤労の月曜日がやってくるのであった。
貴族にも平民にも平等に訪れる労働日。
我が輩は執務室にて書類と格闘する。
「こっちの収支関連はゼニエルに振るとして……新規商人貴族の調査はシラベリエに任せて……。
ああ、そういえば冒険者事業の提携先の選定は……いや、先に魔獣被害の予測を立てるべきか……」
決裁し、署名し、仕事を振り分けていく。
このようにしてタスクを処理していくのは、精神的には楽であった。
なにかに没頭していれば、痛みから遠ざかることができる。……我が輩は妻を亡くした後、幼子を放置してスロットに入り浸るような男になる才能があるかもしれん。
とはいえ、全く少女のことを考えぬかと言えばそうではない。
「――ボンダンドール様、お茶をお淹れしました」
「お、おお……」
音も立てず、黒髪の美しき乙女が執務机にティーカップを置く。
もごもごと礼を言うと、ヴァイアははにかむように笑う。
「なにかありましたら、なんでもお申し付けください。
なんでもですよ。どうせ暇なので」
「お、おお……」
かわいすぎる。
愛しすぎて肺が痛い。
彼女の髪の甘い芳香が我が輩の中枢部分を刺激し、すぐさま理性がそれを嘲笑とともに諭す。
――彼女がいくら可愛かろうが、えっちだろうが。
それ以上に発展することはないじゃないか、と。
なぜならヴァイアは魔女であり。
魔女の力とは純潔を汚されることで喪われるらしく。
それは一時の感情で喪ってしまうにはあまりに惜しい力であり。
必定、この関係に性の輝きが介入する余地はないのだ。
「くそぉちくしょう……」
悔しい。
心の中でえんえんと泣く。
こうなったらまたぞろ奴隷市場に赴いて新規購入するしかない――と思いつつも、一度完璧なる少女を手元に置いてしまった手前、その選択には妥協しかあり得ぬ。
首尾良く性奴隷を買えたとして、えっちしたとしても、乾きを刺激するばかりであろう。
……いっそこうなると少女の顔を見るのも辛いが、傍に置かないわけにもいかん。
魔女という力を支配下に置くという目的上、我が輩は彼女の主人である――ということを常に明示しておく必要があるのだ。
果たして先っぽを咥えてもらうのは純潔を損なう行為だろうか、いや、下着を見せてもらう程度ならば――と愚にもつかないことを考えていると、家政婦のキヨさん(48)が執務室を訪ねてきた。
その顔は、なにやら青白い。
死ぬほど勃起しつつも、面倒なことが起きそうだと直感した。
「……ボンダンドール様、ガンダムバリアン様がお訪ねになられております」
「なに? ガンダムが?」
超巨大ロボの襲撃を前にしたシャアかと思われてはなんなので改めて紹介しておくと、ガンダムバリアンというのは我が愚弟の名前である。
「ふむ……アポはないはずだが」
とりあえず応接間に通してもらうとして、我が輩は大きくため息をついた。
我が輩は愚かで我が儘で不潔そうな見た目をしているが、実情は言うほど愚かで我が儘で不潔でもない。
先日成人したばかりの弟。
事前連絡なしでの訪問。
そして、奴の性格。
……これから何が起きるかは、あらかた察しがつくというものだ。
「……面倒事、ですか?」
ヴァイアが心配そうに我が輩に尋ねる。
それには答えず――我が輩は苦笑を返し、書類を前にペンを手に取る。
おそらくこれが最後の署名になるだろうと思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます