実質初配信。
ダンジョン配信。
いまや配信の一大コンテンツとなったそれは、一時期のゲーム配信と並ぶかそれ以上のものになっていた。
だがもちろん、ダンジョン配信をすれば視聴者が集まるわけではない……というのは、“半年前の俺”が証明している通りだ。
チャンネル登録者数、2。
それが、半年に及ぶ俺の配信活動の実績だ。
しかもそのうちの一人は妹のチハルで、残るもう一個のアカウントはスパムである。
……まあ、現実はそんなものか。
アーカイブが残されていないので配信内容自体は想像に過ぎないが、Fランク
なにかになりたいだけの若造に割く時間なんて、誰も持ち合わせていないのだ。
そんなわけで俺が配信を始めたのは、ただ純粋に桜彩からコメントでアドバイスをもらうためだった。
そのために、今日はマンションで俺の配信にかじりつくよう頼んである。
モンスターから逃げ回っているだけの桜彩だが、ダンジョンのシステムやギミックに関しては俺より遙かに詳しい……はずだ。
たぶん。
俺がいま何より欲しいのは、この罠に嵌める気満々のダンジョンから情報を持ち帰り、生き残るための術だ。
それに……たとえなにかがあったとしても、桜彩と妹とスパムアカウントしか見てない俺の過疎配信なら、瑠璃蜘蛛討伐のような騒ぎにはならないだろうしな。
……と、思っていたのだが。
――――――――――――――――
・初見です
・初見
・これどこのダンジョンですか?
・カメラすごすぎだろ
・なにこの顔にかかってるエフェクト。これ録画?
――――――――――――――――
いま俺の視界の端に映るログには、そんなコメントがぽつぽつと書き込まれていっている。
現在の視聴者数は十五を超えたところだ。
ほぼ間違いなく、このチャンネル開設以来初めての数字になっていることだろう。十六歳だった俺が見たら嬉しくて泣いちゃうかもしれない。
その原因は……考察するまでもなく決まり切っているが。
「えーっと……みなさんはどうしてこの配信に来てくれたんですか?」
一応そう訊いてみると、すぐにレスポンスが返ってきた。
――――――――――――――――
・さやちから
・さやちが宣伝してた
・力になってほしいって
・さやちがさじ投げたと聞いて
・コメダイバーの俺たちに任せろ
――――――――――――――――
「……やっぱりそうか」
というか、そうとしか考えられないしな。
――つまるところ。
桜彩は、俺が思っていたよりもダンジョンというものに詳しくなかったのである。
あまりにアドバイスできなすぎたせいか、ついには、
《私はどんな敵や困難からも逃げ続けてきた女なんです……役立たずでごめんなさい……》
という卑屈すぎるコメントを最後に、書き込みが途絶えていたのだ。
で、なにをしていたのかと思えば……自分のフォロワーに助けを求めていたのか。
……というか俺は別に桜彩を役立たずと思ってないし、人が増えるとむしろやりにくいんだが……。
まあ、そこは気持ちとして素直に受け取っておくか――と、苦笑したそのとき、ひとつのコメントが目に留まった。
――――――――――――――――
・ところで弟くんは、ダンジョン初めてなん?
――――――――――――――――
「…………は? 弟?」
なにが?
誰が?
一瞬、頭に疑問符が浮かんだが。
「……あ、あー、はい。俺、弟、です。
えーっと、姉がお世話になってます」
一瞬遅れて、すべてを理解する。
おそらく桜彩は「弟の配信です」ということにして喧伝してるんだろうな。
まあ、分かる。
同居中の幼なじみとは口が裂けても言えないだろうし、そもそも男絡みの話は十中八九面倒なことになるしな。
分かるよ。
……分かるけど、自分が「姉」って認識なんだな桜彩。
そこはだいぶ議論の余地があると俺は思うぞ。
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