ダンジョンへ。



 画面の景色は変わらない。


 洞窟を構成する石に発光する成分が含まれてるのか、それとも光源が敷き詰められているのか――妙に明るい洞窟だ。

 

 その配信上に、コメントがぽつぽつと書き込まれていく。



――――――――――


・二時間くらい経った?

・天井を映してるだけで五〇人以上集める女

・天井映してるだけで集まる五〇人さんサイドに問題があるだろ

・なにこれどういう状況?

・悲鳴あげてツールズ放り出して逃げた定期

・配信切れないのは珍しくね?

・4んだ?

・逃げ帰ったっぽいが

・俺たちのさやちがCランクのダンジョンで死ぬわけ……

・Cなら全然あり得るんだよなあ……

・なんで巨大ダンゴムシ倒せたくらいの女がCランク来ちゃったの?


――――――――――



『すみません、ここってどこですか』


 俺がそう書き込むと、すぐさま『配信情報見ろ』と返ってくるが。

 親切な視聴者のひとりが、マップ情報を貼り付けてくれた。


「……あの廃工場があるあたりだな」


 徒歩で四十分ほどである。

 普通ならバスを使う距離だが……幸いにして、近くにある業務用スーパーにポータルが敷設してある場所だ。


 俺は魔力を流し込み、ポータルを起動させた。




***




 月に照らされた無骨な工場は、まさにダンジョンの門ともいえる貫禄を出していた。


 事務所棟や置き去りにされたフォークリフトを横目に、敷地内を進んでいく。

 半開きになった錆びだらけのシャッターをくぐると、不意に目の前が怪しく光った。


「……魔法陣、か?」


 その淡く光るその模様は、俺が使うような異世界仕込みのものと同様……というわけでもないようだ。

 ずいぶん意味不明な構築をしているし、ひとつひとつの構成要素も未知のものだ。

 

 だが、俺はどこかで……。

 これと同じものを、見たことがあるような――。



「…………いや、いまはそんな場合じゃない」


 詳しく分析を始めようとする自分を律する。

 案内板などはないが、ネットの情報などを見るに、これがポータルのような役割を果たしてダンジョン内に転移させるのだろう。


 ここが、桜彩が取り残されているダンジョンの入り口なのだ。

 

「……生きていてくれよ」


 俺はそう呟いて、そのポータルらしき魔法陣に足を乗せた。

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