探索者。

「なるほどな……」


 帰宅後、ダンジョン配信について調べてみる。

 

 興味がなかった……というか、わざわざ自らすすんで危険地帯に行く理由が分からなかったのだが、配信を見てみると確かに面白い。

 

 そもそも「ダンジョン」と一口に言っても、俺が異世界で体験したような暗い雰囲気の、うめき声と怨嗟の声で満たされたダンジョンではなく――壮大でリアルなゲーム世界のような趣であった。

 

 モンスターが出てくる。倒す。

 アイテムがドロップする。スキルを入手する。


 そして、それを元手にまたダンジョンに潜る。

 

 ――と、ここまでは異世界とさして変わらないが、ダンジョン内で手に入れたものはダンジョン世界でしか発現しないようだ。


 スキルについても同様。

 ダンジョン内で跳躍したり火を出したり氷漬けにしたりできても、現実に帰ればただの人、ってことだ。

 

 まあ、モンスターが街中に出てこないことや、スキルを使ってやりたい放題してる奴を見かけないことを考えると、それはそうかって感じだが。


「っていうかこれ、死んだりする……よな?」


 ……大丈夫なのか?

 国家資格とかなしでダンジョンに入っても。

 

 そう思って調べると、死亡した事例をいくつか見ることができた。

 やっぱ、死ぬこともあるのか……。


 しかし、にも関わらず、その危険性に関してはほとんど無視されているような……そんな空気を感じる。


 ……なんだか妙だ。

 例えば山登り配信で滑落死してもその規制はされないが……そういう理屈か……?


「なんか、不安になってきたな……」


 ダンジョン配信というのはもっとカジュアルなものかと思っていたが。

 死ぬことがあるとなると、途端に桜彩サアヤのことが心配になってくる。


「今日もダンジョンに行ってるのか……」


 “さやち”――つまり、桜彩の配信ページに飛ぶと、ライブ配信中の文字と共に動画が流れ出す。

 そこは今朝教室で見たような、森林のダンジョンではない。

 なんというか、明るい洞窟のような空間だ。


 アーカイブを確認してみると、ちょうど俺が“帰ってきた”あたり――三月の後半から毎日配信しているようだ。春休みだったから……だろうか。

 

「あいつ、そんな目立ちたがるタイプじゃないと思ってたんだけどな」


 しかも臆病なタチだった……と思う。

 というか、そういうスタンスの配信スタイルみたいだし、そこは変わってないだろう。

 

 となると。

 …………なんでそこまでして、ダンジョンに潜るんだ?


「…………まあ、なんかきっかけがあったのかもな」


 深く考えず、俺はスマホの画面を消す。

 桜彩が怯える姿は、見ていて気持ちの良いものじゃない。


「飯でも作るか」


 俺はそう決めて、キッチンへと向かった。




***





 その日。

 夜の十時を過ぎても、桜彩は帰ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る