廃棄




 驕りだ。

 穴があったら入りたい。


 あむりあむり。

 俺はおむすび一個を二口で口の中に迎え入れると、頬をぱんぱんにして堪能した。

 中身は昆布のような触感と味だった。

 おむすびがやわらかくほどけて、米と塩と昆布が程よく混ざり合って、超ほっこりして美味しかった。


 幼馴染が個人経営している、おむすび専門店で買ったのだ。

 何でも、加工する際に廃棄している魚の目玉や尾びれ、骨、獣肉や食用肉の端切れ、虫に食べられたり形が不格好だったりする野菜を安く引き取って、おむすびの具材として使っているのだそうだ。

 ただし安く買えるのならば何でも引き取りわけでもないらしく、米はもちろんのこと、海苔や具材になる材料も、自ら足を運んで選んで買っているそうだ。

 食材を大切にする、やり手でもある、かつ、おむすびも文句なしに美味しくて安心する味だと、幼馴染もおむすびも評判は上々。


 そうだよな、幼馴染はそうだよな、そうなんだよ。

 ああ、恥ずかしいったりゃあありゃあしない。

 俺が守らなくたって、幼馴染は一人でシャンと立って生きていける人間なんだよ。

 俺が手を貸す余地皆無なんだよ。


「はあ~~~。どうすっかな~~~」


 毒毛が抜けたようだった。

 きっとこのおむすびの力だろう。

 結局、ここは俺がのめり込んでいた乙女ゲームとは違う世界だが、乙女ゲームのように、幼馴染は聖男と仲良くしている。聖男は幼馴染のおむすび専門店を手伝っているのだ。

 俺は面接の段階で落とされたけど。

 後進も落とされたけど。


「はあ~~~」


 とりあえずもう一個、おむすび食べよう。

 何にしようかな~。











(2024.1.16)



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