刀錆
鴨が葱を背負って来たな。
幼馴染が立ち去って少しして察知しては、布団から飛び跳ねてその場に向かった俺は、ニヤリと笑った。
人間に取り憑く新種の悪霊だった。
「ぐふぐふぐふっ」
「先達。お休みになっていてください。拙者一人でもこの異常事態は収められますゆえ」
「ぐふっ。いや。これは気が高まった時に出る咳だから気にしなくていいから。それよりも。こいつは俺に任せて。後進は主の元に行ってくれ。いつもと様子が違う。もしかしたら、主が身に着けているお守りだけじゃ退散できない悪霊が出現するかもしれない」
「御意」
後進の迷いなく立ち去る音を聞きながら、悪霊が取り憑いている男性を注視し続けた。
幼馴染と共に転生したこの異世界は、俺がしていた乙女ゲームとは違う。そもそも、俺がしていた乙女ゲームは学園ものだ。こんな悪霊など出てこない。けれど、登場人物はそっくりなのだ。
幼馴染は乙女ゲームに登場するヒロインにそっくりだし。
幼馴染の婚約者は乙女ゲームに登場する侍にそっくりだし。
そして。
「ぐふっ。ぐふっ。恨み辛みを晴らすためでもあり。幼馴染と後進の幸福のためだ」
悪霊に取り憑かれている男性は、乙女ゲームに登場する聖男にそっくりだった。
ヒロインと必ずくっつく、憎むべき相手である。
ヒロインは、侍とくっつくべきなのだ。
それを邪魔する輩は。
「俺の刀の錆にしてやるぜ」
(2024.1.13)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます