閃光




 わかっているさ。

 俺が今からしようとする行為には、八つ当たりも含んでいる。

 もちろん、根幹には幼馴染と幼馴染の婚約者に幸福になってもらいたいがために、こいつを抹殺しようとしているが、それだけではない。

 乙女ゲームでの鬱憤も、確かに含んでいるのだ。

 ヒロインと侍をくっつけたいんじゃおまえは邪魔じゃ。と。

 いやしかしそもそも、こいつは、聖男は何も悪くない。

 ゲームシナリオが悪いのだ。

 だが。人間は愚かな生物である。

 割り切れないことが、あるのさ。




「とゆーことで。悪いな」


 本来悪霊は生け捕りが基本なのだが、どうしてもそれが困難な場合において。

 抹殺が許可されているのだ。

 しかし、その許可の対象は、悪霊のみ。

 人間には、適応されない。

 人間を、聖男を抹殺した場合、もしかしたら俺も、処分対象になるかもしれない。

 規則からはみ出したら、不要だと。

 それでも構わないと思った。

 不思議だ。

 俺はこいつを、こいつらを抹殺するために生きてきたと、今ならわかる。

 この世に産み出された瞬間、生きとし生けるもの、それぞれが課された役割。

 先達たちは言った。

 その時が来ればわかる。

 ああ、そうだな、俺もわかったよ。




 先手必勝。

 一撃必殺。

 反撃する暇を与えないばかりか、仕留められたとわからずにこの世から葬り去る。




 じゃあな。聖男。

 呟いては、二か所。

 悪霊の急所と人間の急所に、俺が短剣を刺そうとした、その瞬間。

 閃光が聖男から放たれた。












(2024.1.14)



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