風邪




「ぐふっ」


 ぐふぐふぐふ。

 我ながら変な咳が出るなあ。


 畳の上に直敷きした布団に潜り込んで、一時間後のことだ。

 突如として身体がずっしり重く感じたかと思ったら、この奇妙な咳が出てきたというわけだ。

 恐らく疲労による風邪、だろう。

 推しにそっくりな後進にいいところを見せようと、また、少しでも負担を減らしたいと、張り切りまくったのがいけなかったのだ。


 いや、幸福な時間だったのだ。

 推しそっくりの後進と一緒に過ごす時間は、一緒に共闘して悪霊を捕獲する時間はとてつもなくこの上なく不謹慎だがこのまま一生続かないかなと思うくらい、だって信じられないことに後進と目と目を合わせたらなんか動きがわかるっていうか以心伝心っていうかあれこれもう両想いじゃね、みたいな、だから調子に乗っちゃった、みたいな、俺に任せろって。


 いや、思うだけだ。ちらっと。本気では思っていない。

 後進は少しでも長く幼馴染と一緒に過ごしてほしいのだ。

 自分ごときがその時間を奪うことなどあってはならないのだ。


「ちょっと」

「えっ!?ぐふっぐふっ」


 気が付けば幼馴染が俺を見下ろしていた。

 いつもの冷めた顔ではなく。

 とてつもなく憎しみが籠ったものだった。











(2024.1.12)



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