第3話:コネで入学するよりは

 そして、10月。高平太はある中学校の門を叩くことになる。その、中学の名は。

「……獨協、か」

  何の因果かね、獨協入るのも。

  ん、待てよ? この世界だと、獨協の存在って……。

 一応、彼の名誉のために補足するが、この世界での獨協系学校の偏差値は、決して低くは無い。むしろ、若干より高いくらいである。と、いうのも、獨協の設立はドイツの学問を取り入れよう、というのは主たる理由とされており、ゆえにドイツが戦勝国に入っているこの世界では、それなりに価値のある学校として、決して偏差値を疎かにはできなかったというある種滑稽な理由が存在する。そして、世界最初の電算機言語こそ日本語ではあるものの、未だ日本はドイツに比べ、半導体技術では立ち後れているのが現状である。何せ、ドイツの科学技術は世界一であり、医学薬学も世界一であることを考えたら、未だ日本はヨーロッパに対して追い抜いたとは言い難い側面が存在した。むしろ、電算機の共通言語が日本語であるからこそ、なんとか日本は最先端技術に振り落とされないで確固たる地位を築けているという部分すら存在していた。

 そして、彼が獨協を選んだ理由とは……。

「おや、君が噂の「高平太」クンかね」

「あ、はい。……「高平太」呼びってことは、あの論文を見はれましたか」

「まあ、そうなるね。僕が下読みをしたんだ。Willkommen nach Deutsch Schule!! ……君の入学を歓迎しよう。と、いっても、すぐに卒業してしまうかも知れないけどね」

「それはさすがに、買いかぶりすぎかと」

  だって俺、外国語は碌にできねぇし、数学もあやふやだし、得意分野と考えていた国語や理科すら、はっきり言って怪しいぞ? 歴史も歴史で、近現代史は潰滅だし。

「謙遜、謙遜。……まあいいさ、あれだけの論文を書けるのならば、将来有望だ。君が望むのならば、研究室も考えられるよ」

「……考えるだけは、考えておきます」

  まあ無理だろうけどな!

「それじゃ、どこから案内しようか?」

  ……テンション、高いなあ、この人……。

「ひとまず、明日から通う教室お願いします……」

「良いだろう、然らばまずは、第一文化ホールだね!」

「……人の話、聞いてました?」



  ……なんともやれやれ。

  ぶっちゃけ、獨協中学校は地方の私立学校にしては、そこそこ広い。まあ広いつっても、播州平野には限りが有るから山間部に建設しなければそこまで広い立地は取れないのだが。

  とはいえ、まさか地方都市内部とはいえここまで広い面積を一学校が取れるとは思っていなかった。或いは、ドイツが勝ったからだろうか? それはまあ、よくわからんが。

  そして、眼前の先輩がハイテンションなのも理由は判明した。どうやら、ドイツとの交換留学生に当選したらしい。だから上機嫌なのか。

  ……せいぜい、抽選の対象にならんように大人しくしておくか。ぶっちゃけ、日本から出たくない、というのもデカいしな。

「さて、それじゃ噂の才子クン、そろそろ日も傾き始める頃だ、僕は旅立ちの準備があるからお暇させて貰うよ」

「……はい、わかりました……」

  漫画的に言えばボロ絵になっているだろう現在の心境を、誰がわかろうや……。

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