「浮気してる?」って、聞かない方がいいよ。

エリー.ファー

「浮気してる?」って、聞かない方がいいよ。

「浮気してる、と聞くのはやめた方がいいよ」

「なんで」

「だって、意味がないから」

「確かに、相手が仮に浮気をしていない、と言っても信じる証拠が出て来たわけではないしね」

「そういうこと」

「でも、聞きたい」

「どうして」

「だって、知りたいから」

「だから、返事があるだけで、知ることができないって言ってるんだよ」

「じゃあ、返事が欲しい。返事があれば安心できる」

「返事が、浮気してるよ、だったとしても安心するんだ」

「しないよ」

「返事なら安心するんでしょ」

「違うよ。浮気してないよって、言葉が返ってくるならいいよ」

「なるほど、そもそも、浮気してるよって返事が来るとは思ってないんだ」

「当たり前でしょ」

「じゃあ、聞く意味ないじゃん。返ってくる言葉があらかじめ分かっているのに、何で聞くの」

「いいの、それでも。とにかく返事が欲しいの。浮気してない、その言葉以外は認めない」

「で、分かり切った返事を聞いてどうするの」

「安心する」

「繰り返しになるけど、その返事の内容が真実であることを示す証拠はないよ」

「こっちも繰り返しになるけど。でも、安心する。すっごく安心する」

「じゃあ、質問をしようと思った時には、どんな返事なのかも分かってるから安心するんだ」

「いい。もう、それでいい」

「なるほど。承認を得ることができた」

「とにかく、安心したいの」

「じゃあ、安心することができたわけだから、二度と聞かないよね」

「聞くよ」

「え」

「聞く」

「安心したんじゃないの」

「安心は、期間限定だから。また、安心が欲しくなるの」

「ドラッグみたいな言い方」

「そう、ドラッグ。安全なドラッグなの」

「君にとっては安全でも、相手にとっては何度も質問されるから非常に悪質で低俗なドラッグだと思うよ」

「でも、愛ってそういうものでしょ」

「再確認をするってこと」

「そう、言えると思う。何度も言葉にすることで、何とか時間を稼ぐというか」

「時間を稼ぐってどういうこと」

「誰かと一緒にいると不安になる時間が生まれるから、それを埋め合わせるってこと」

「で、その誰かとは、どれくらい一緒にいる予定なの」

「一生」

「じゃあ、死ぬまでってこと」

「そう」

「さっき、不安にならないように時間を稼ぐとか、埋め合わせるって言ってたよね」

「言った」

「じゃあ、死ぬまでの時間を埋め合わせるために、浮気してるのって、聞くんだ」

「そうだよ。悪い」

「ありかも」

「何が」

「凄く、いいと思う」

「いいんだ」

「哲学的だ」

「そう思って口に出したわけじゃないけど」

「だって、人間って皆そうだからね。死ぬまでの時間をいかに埋めていくかを考えているうちに死ぬ生き物だから。でも、君ってどう埋めるかを考えているし、もう実行に移しているよね」

「まぁ、聞いてるからね。浮気してるのって」

「凄い。普通は悩んで、何が正解なのかを決めかねて、そのまま死んでいくのに」

「思った時には、やってるかも」

「凄い。凄いよ。ちゃんと自分の人生のクオリティを維持するために生きているんだね」

「まぁ、そう言えるかもね」

「ここまでの会話でもそうだけどさ。自分の意見を、ちゃんと言葉にできる自信もあるなんて、凄いよ」

「それほどでも」

「でも、なんで浮気してるかどうかで悩むのかな。自信があるはずなのに」

「不安になって質問をしてるわけじゃなくて、これは、あくまで確認だから」

「確認しても、何も分からないのに」

「えぇと、だからね。さっきも言ったと思うけど」




 浮気してるのって、何度も聞いてくるから。

 煩わしくなって、つい浮気しちゃった。


 ずっと前から浮気してたやつほど、相手の落ち度に飛びついて、そういう言い訳するんだから。




「浮気してるって、聞かない方がいいよ」

「なんで」

「何も分からないよ。もしくは何か分かったような気がするだけだよ」

「それでもいいの」

「何も分からないのに、質問をするってこと」

「そう」

「じゃあ、それは質問じゃなくて独り言だよ。相手を前にして独り言を口から出す人間は浮気されて当たり前だよ」

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