第7話

(贔屓、狴犴、睚眦の計三名)


贔屓「ふあぁ〜〜······あ?」

狴犴「あ、起きた」

贔屓「······何で、ここに居られるんです?」

狴犴「警戒」

贔屓「あ〜·····睚眦さんね······」

狴犴「そ。印付けされてるんだから、警戒するに越した事無いし」

贔屓「嬉しいけど、警戒って君······昨日寝た?」

狴犴「夜は寝てない」

贔屓「つまり昼には寝ていたと」

狴犴「暇だったしね。昨日の顔合わせ以外、用事何て無かったし」

贔屓「羨ましいねぇ······僕は家が驚く程遠いから、そんな時間は無かったんだよなぁ······」

狴犴「御愁傷様。これから家に帰るんでしょ? 序だから護衛してやるよ」

贔屓「有難いけれど······遠いよ? 僕の家」

狴犴「良いよ、どうせ暇だし」

贔屓「まぁ確かに、僕もやる事は無かったしね。唯一やる事と云えば、親への御土産とかぐらいかなぁ······」

睚眦「然らば、妾も共に行こうぞ」

狴犴「あ!」

贔屓「……お早い参上に御座いますね……睚眦」

睚眦「応。狴犴も申したが、八龍は平生へいぜい退屈なのよ」

狴犴「それは認めるけど、そうやって唐突に出て来ないで。何するか解ったもんじゃない」

睚眦「妾は為そうと思った事を為すのみよ。具する者は後に現れよう」

狴犴「傲岸不遜って言葉が服を着て歩いてるみたい……全く……」

贔屓「まぁまぁ狴犴……」

睚眦「のう、仕度は済ましたか? 妾を待たせるでないぞ」

贔屓「あぁはい、只今……」

狴犴「手伝う。癇癪でも起こされて暴れられたら困るし」

贔屓「有難う、助かるよ」

睚眦「然らば妾は此処にて待つ。早う済ませよ」

狴犴「チッ……偉そうに……」

贔屓「実際偉いでしょ? 君だって負けはしないだけで、敵わないんだし」

狴犴「威張り方が気に入らないの。どこの天子てんしだって話だ……」

贔屓「いや、実際天子でしょ」

狴犴「は?」

贔屓「彼女、帝の娘だよ?」

狴犴「…………」

睚眦「父上は好かんな。直ぐ癇癪を起こす割に、力が伴っておらん。謀叛むほんを恐れるが故、臣下を縛る……云うなれば牽制と云う奴よ。無上の臆病者だ」

狴犴「みかどにすらその扱いなの……」

睚眦「妾を誰と心得るか。帝の娘ぞ。天子の娘であれば、己が父に咎めも出来よう」

狴犴「ああそう……」

贔屓「彼女のあの力を見れば、判別は容易だよ。彼女は宝玉を持たないけれど、その力は確かに八龍を超えている。宝玉すら不要だから、持っていないんだよ」

狴犴「どこまでも規格外な奴……」

贔屓「却って、今現在は君の方が傲岸不遜かも知れないね。仮にも帝の娘に、規格外な奴だとか、いけ好かない奴だとか……」

狴犴「致し方無いでしょ。本当の事なんだから」

贔屓「否定は、しないけれど……」

睚眦「なあ贔屓よ。待つにも飽いたぞ。早う」

狴犴「こんのッ……!」

贔屓「お待ちを…………済みました」

睚眦「ようやくか。ちと遅いな」

贔屓「面目次第も御座いません。次はお待たせは致しませぬ故……」

睚眦「ふむ……良い、許す。励めよ贔屓」

贔屓「身に余る言葉に御座います」

睚眦「時に狴犴」

狴犴「何」

睚眦「妾は汝も許そう。男子おのこはもう良い。面映おもはゆき女子おなごが欲しかったのよ」

狴犴「あっそ。あたしはいけ好かないし欲しくは無いけど」

睚眦「良い良い。其れで良いのよ。へりくだる者は居れど、真っ向に立ち向かう者は居らなんだ。其れが面映ゆいのよ」

狴犴「何こいつ……」

睚眦「くずおれてくれるなよ? 妾の楽しみが減る」

狴犴「云われなくても変わらないから。ほら、アンタも行くんでしょ」

睚眦「行くか。良かろう」

贔屓「そこは普通、僕が仕切る所なんじゃ無いかなぁ……? まぁ、良いんだけどさ」

睚眦「遅れるなよ贔屓。此度は待たんぞ」

狴犴「今だけは同意。あたしも待つのは御免だから」

贔屓「あぁ、はい……」

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