第6話

(贔屓、狴犴、睚眦、狻猊の計四名)


贔屓「また背負う責任が増えた……」

狴犴「何か……御免」

睚眦「な奴よ。斯様な事は些事に過ぎぬ。気に掛けるだけ無駄な事ぞ」

狴犴「元はと云えばアンタの所為でしょ……!」

睚眦「応! 又やるか狴犴!」

贔屓「睚眦……止めて頂きたいと、申し上げましたが……?」

睚眦「む……致し方無い。狴犴よ、此処は互いにほこを収めるとしようぞ」

狴犴「チッ……いけ好かない奴……」

贔屓「二人共、今は止めてね。僕の背負う責任をこれ以上増やさないで……」

狴犴「いつか噛み千切ってやる……」

睚眦「ハハッ! 其の意気よ。獲物は多い方が良い」

贔屓「この二人、合わせたら駄目だなぁ……」

狻猊「睚眦」

贔屓「あっ……狻猊さん」

睚眦「応、狻猊!」

狻猊「贔屓、先刻振りだね。此の二人を見れば、汝の心労は推し量れ様も無い」

睚眦「異な事を。平穏無事であろうよ」

狻猊「五体満足と云えば、其れはそうだ。然れども、くんの云ふ平穏無事は臣の其れに非ず」

睚眦「む、然様か。許せよ、贔屓」

贔屓「いえ……それならば、狴犴に云ってやって下さい……」

狴犴「こいつの喉笛噛み千切れるなら許す」

睚眦「だそうだが?」

贔屓「ならば不要です……それより、狻猊さん。何か睚眦に御用が?」

狻猊「我等が君を迎えんとね。苦労を掛けた。私から謝ろう」

贔屓「いえ、そんな……僕は何も出来なかったので……」

狻猊「否。汝の為に、被害は最小限で済んだ様だ。感謝するよ」

贔屓「はぁ……」  

狻猊「然らば、我等が君よ。臣と共に参らん」

睚眦「応。然らば、又会おうぞ、贔屓、狴犴」

贔屓「また会いましょう、睚眦」

狴犴「二度と来るな」

贔屓「……嵐の様な人だったなぁ」

狴犴「二度と会いたくない」

贔屓「まぁ……会う事はもう無いだろうし……」

狴犴「いや、また会うよ。そういう奴だった」

贔屓「そういうものかな……きみが云うなら、そういう事なんだろうなぁ……」

狴犴「ほら、あたし達も行くよ。アンタには、宿も必要だろうし」

贔屓「おぉ〜、有難いよ。遠出して来ちゃったから、今日中には帰れなくてさ」

狴犴「それと」

贔屓「ん?」

狴犴「気付いてるんでしょ」

贔屓「……うん。『印付け』されちゃったみたいだね」

狴犴「最初に出て来た時に付けられたんだろうね。あいつ嗅覚も鋭いから、多分どこからでも追って来る」

贔屓「恐ろしい事だよ」

狴犴「宿代も出す。せめてもの償い……みたいな物」

贔屓「それはそれは。じゃあ、お言葉に甘えようかな……あまり食べられなくて空腹だし、食堂にも寄りたい……」

狴犴「本当に燃費悪いなお前……」

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