第5話

(狴犴、贔屓、睚眦(??)の計三人)


狴犴「へぇ……気付いたの?」

贔屓「うん。前々から気に掛かってはいたのだけれど、この街に入ってから見られてはいたなぁとね」

狴犴「私だけじゃなく?」

贔屓「そう。当代の椒図とはやり難そうだなと思っていたら、案の定その通りだったよ。彼の周囲には透明な箱に似た、揺らめきの様な物があった。酷く判り難いし、まだ半信半疑だったけれど、あれが、彼の警戒の証なんだろう」

狴犴「驚いた。初見で見抜くとか、どんな眼してんの。あたしでも見破るまでに三日掛かったのに」

贔屓「どうも。無駄に眼が良いだけなんだけどね。父さん曰く、『贔屓は足が遅く攻める手も持たないが、腹を据えて構え、見定める事に長けている』そうだよ。つまりは指揮官向き、前線では役立たずって事さ」

狴犴「まぁアンタ、見るからに運動向いてないからね。反応は良いのに」

贔屓「だから云ったでしょ、役立たずだって。来ると解っても、身体が付いて行かない……困ってるよ本当、譲れるなら譲りたい」

??「ほぉう? 然らば要らぬな、其の炯眼けいがん

狴犴「なッ……!?」

贔屓「……お初にお眼に掛かる……慚愧ざんきに堪えませんが、貴女にはその深紅がお似合いかと」

??「妾は貴石きせきを好くのだ。或いは、其の心包しんぽう……含めば甘美、噛めば極楽であろうな?」

狴犴「させる訳無いでしょ!」

贔屓「狴犴」

狴犴「何!?」

贔屓「大丈夫。この人も『それ』は理解してるさ」

狴犴「……!」

??「然様。一時の戯れも解さぬとは、程度も知れようと云う物……汝は好かんな」

贔屓「さて……我等が『睚眦』は、この私めに何を御所望に御座いましょうか」

睚眦「此度は只の味見よ。汝の蛮勇、面映おもはゆし。妾は汝を好こう。汝も妾を好くが良いぞ」

贔屓「身に余る御言葉、痛み入ります」

睚眦「応」

狴犴「……あたしの事は眼中に無いって事」

睚眦「くどい。汝は好かんと、今云ったぞ?」

狴犴「……来るなら、返すけど?」

贔屓「恐れながら睚眦よ。彼女は我が朋友に御座います。重ねて申し上げますと、八龍内での争いは禁じられております」

睚眦「知っておるわ。窮屈な事よ。本を正せば妾に従う者共で在った八龍が、妾を縛るとはな」

贔屓「貴女様は、我等の理の外に立つ御方に御座いますので……」

睚眦「……良い。許す。妾と共に食卓を囲む事を許そう」

狴犴「……は?」

睚眦「座れ。未だ満腹では無かろう?」

狴犴「何コイツ……」

贔屓「狴犴、手を出さない様にね。相手はあの睚眦なんだから……」

狴犴「解ってるよ……」

睚眦「血の気が多いな。うぶい奴よ」

狴犴「こんのっ……!」

贔屓「狴犴……!? あのっ……止めてね!?」

睚眦「応! やるか狴犴よ! 汝の臓腑、喰ろうてくれるわ!」

贔屓「二人共止めてくれ! 店が壊れる! 誰が弁償するんだ!」

睚眦「椒図共が手を回すであろうよ! 先ずは闘いよ!!」

狴犴「上等……! 喰い殺してやる!!」

贔屓「止めろォ!! 今以上に責任を背負うのは御免だァ!!」

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