第4話

(贔屓、狴犴、椒図(店主)の計三名)


贔屓「酷い目に遭った……」

狴犴「狻猊からは頬を撫でられるわ、饕餮からは味見と称して噛み付かれるわ……蒲牢が止めなきゃ、その腕、噛み千切られたかもね」

贔屓「話には聞いていたけれど、本当なんだね……饕餮の咬合力こうごうりょく……」

狴犴「危なかったんだからね? 一応八龍同士のやり合いはご法度って云われてるけど、饕餮のアレは場合によっては命に関わる。その癖、純粋な食欲から来ているから、本人としても止め様が無いんだ。あたしも初対面で噛み付かれたし」

贔屓「……え?」

狴犴「噛まれたさ。あたしが弱かったら、多分味見じゃ済まなかった」

贔屓「恐ろしいねぇ……これが八龍か。修羅の国の住人なんだろうな、きっと……」

狴犴「その修羅の国の住人に、アンタもなったんだよ」

贔屓「聞きたくも無い現実をどうも有難う、修羅の国の住人さん……にしても、あの店主……紫水晶と云う事は、椒図……で良いんだよね?」

狴犴「そうだよ。あいつ椒図。閉じる事を好むってのを場の纏め役だのって解釈した物好きだよ」

贔屓「だからバーテン何てやってたんだな……」

狴犴「そ。後は、色々と仲介役をやったり何だり……まぁ実際居たら便利だから、皆ある程度仲良くやってる。アンタもそうしときな」

贔屓「胸に刻んでおくよ。敵対すると怖そうだ」

狴犴「厄介だからね、あいつ。あいつ自身は弱いけど、伝手つてがあるんだ」

贔屓「一番怖い奴じゃないか……」

店主「酷いな……陰口かい?」

贔屓「……なッ!?」

椒図「勘違いはいけないなぁ。僕は弱いから、何かあった時に色んな人に助けて貰える様に、色々と頑張っているだけだよ」

贔屓「……いつの間に僕らの上に……?」

椒図「たった今だよ。狴犴からは許可を取ったし、何より君に危害を加えるつもりは無い。自己紹介代わりと受け取っておくれよ」

贔屓「狴犴さん……?」

狴犴「こういう事もあるよってね。身を以て教えた方が良いだろ?」

贔屓「それはまぁ、痛感したよ……」

椒図「じゃあ、ただの自己紹介だから僕はこれで。これから一緒に頑張ろうね、新たな贔屓くん」

狴犴「……行ったね」

贔屓「はぁ……幸先の悪い……」

狴犴「良い方に考えてみなよ。上手く利用出来れば、心強い味方になる可能性がある……とかさ」

贔屓「その『上手く利用出来れば』の部分に眼が向く奴なんだよ、僕は……これも重きを負う贔屓の宿命か……?」

狴犴「悲観的だなぁ……まぁ、解らなくもないし、却ってその方が息が長いかもね。命 あっての物種って云うし」

贔屓「ものの数十分で、随分と肩が重くなった気がするよ……これから生きて行けるか なぁ……」

狴犴「大丈夫だよ。いざとなったらあたしが助けてやるから。ほら、昼時だし、何か食べに行こう」

贔屓「……拉麺と、小籠包。春巻と……包子パオズを食べよう……」

狴犴「燃費悪いなお前」

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