第3話

(店主(椒図)、狴犴、贔屓、狻猊の計四名)


店主「お、来た来た」

狴犴「頼も~う。来てやったよ~」

店主「ようこそ狴犴。遥々来て貰って済まないね。それで、その隣に居る君が……」

贔屓「どうも」

店主「君が現代の贔屓か」

贔屓「一応は。彼女と同じ、あくまで次代が決まるまでの代理ですがね」

店主「そう卑下しないでくれ。僕達は君にも期待しているんだから」

贔屓「買い被り過ぎです。そう役には立ちませんって」

狴犴「ちょっと狻猊。そんなに煙を吹かないでよ。こっちに流れてくる」

狻猊「おや、何を云うかと思えば。狴犴。この私から煙を取り上げようと云うのかい?」

狴犴「取り上げようってんじゃないの。今はやめろって云ってるんだ」

狻猊「ふふ、良い度胸。しかし哀しきかな。其の娘が為に、我が紫煙は息を潜めて終う」

狴犴「貴方の身体にだって悪いんじゃないか、仙人のなり損ない」

狻猊「其れを無くしてこの煙は得られないんだよ。結句、此の世は因果応報と云う事さ」

狴犴「全く……」

贔屓「あの……彼は」

店主「狴犴がそう呼んだ通り、狻猊だよ。見て解ると思うが、愛煙家でね。頻繁にここに来ては、煙管から煙が立ち昇るんだ。誰が呼んだか、霞では無く煙を喰らう仙人のなり損ない」

贔屓「では、その隣の暴飲暴食は……」

店主「饕餮とうてつだね。あの小さな身体に良くも、と思うかも知れないが……まぁ、直ぐに慣れるさ」

贔屓「はぁ……」

店主「その右隣で饕餮に餌付けしている子が蒲牢ほろう。饕餮と蒲牢は特に仲が良くてね、宛ら本物の姉妹の様なんだ。大抵いつも一緒に居るし、同じ家で、二人で暮らしているね」

贔屓「そこまでなんですか……」

店主「あんまり仲が良いものだから、生き別れの血を分けた姉妹か、将又恋人かと疑われた事もある……と云うか、今でも疑われている。彼女達、酷く似ているからね」

贔屓「確かに……」

店主「蒲牢の右隣で饕餮の料理を摘みながら飲んでいる男性が蚣蝮はかだ。あいつは酒に眼が無くてなぁ、どんなお願いも、酒さえあれば呑むと云われる程さ。本人は否定してはいるけれど、実際はどうだか……」

贔屓「あのじいさん、そんな御偉方だったのか……」

店主「知らなかったかい? まぁ、そうは思えないだろうからなぁ」

贔屓「人は見掛けによらないものですね……」

店主「全く以て。さて、これでここに居る八龍は全員かな。ここに居ない人達は、個々人で忙しかったりするから」

贔屓「そう……ですか」

店主「狴犴は知っているだろう? ほら、最後は君の番だ」

贔屓「……緊張しますね」

店主「仕方が無いよ。最初は皆そんなものさ。気を引き締めて、でもちょっと緩めて、緊張し過ぎず行こう」

店主「……さあ、新たな贔屓よ。我等は君を歓迎しよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る