第3話 やっぱり異世界だったのか……
そこに立っていたのは、とても可愛らしい女の子だった。
色白の肌に美しい銀色の長髪。手足は細く、体つきも華奢で、全体的に小柄なため非常に軽そうだ。
童顔だが、目鼻立ちは整っており、特にぱっちりとした瞳や柔らかそうな唇が彼女の魅力と言えるだろう。
だが、最大の特徴はなんといってもその胸だ。外見は中学生くらいにしか見えないのに、胸だけはかなりの豊満さを誇っているのだ。
そのあまりの大きさに、「この胸に顔をうずめたら天にも昇る気持ちを味わえるのではないか」などと不埒なことを考えてしまう。
……だがまぁ目の前に豊満なおっぱいがあるのだから、多少エッチなことを想像してしまうのは仕方ないことだろう。
そこにおっぱいがあるからエロい妄想をするのは当たり前。若い男子ならみんなそうに決まっている。
――てか、何で俺はこの女の子に見惚れてるんだ!? 可愛いけど、この子は何らかの犯罪組織の仲間かもしれないんだぞ!?
彼女の容姿を一通り観察したところで、俺は自分が現在置かれている状況を思い出す。
犯人がどんな手段を用いたのかはわからないが、見知らぬ土地に連れてこられたことは事実だ。
そして、目の前の少女もそれに関わっている可能性は高い。可愛い女の子だからと油断するのは危険だろう。
自らにそう言い聞かせてから、俺は最大の警戒心を持って再び彼女を見据えた。
だが彼女は、俺の警戒心になどまったく気づいていない様子でなおもフレンドリーに話しかけてくる。
「よかった……意識はあるみたいですね」
よく見れば、その目には涙が滲んでいた。
そして、俺が意識を取り戻した今は心底安堵したかのような表情で見つめている。
どうやら本気で俺のことを心配してくれていたようだ。
――もしかしてこの子、俺をこんな場所に連れてきた犯人とは無関係なのかも……
彼女の目に浮かんでいる涙は本物だし、俺を心配する様子も演技だとは思えない。
そうなると彼女は、倒れている俺を最初に発見しただけの一般人ということになる。というか、もうそちらの可能性の方が高いだろう。
何らかの犯罪組織の仲間かもしれないなどと疑ってしまったことについて急に申し訳ない気持ちになった。
だから少しだけ警戒を解き、自身が無事であることを口頭で伝えることにした。
「ああ……俺なら無事だよ。意識もちゃんとあるから安心してくれ」
口頭だけでなく、実際に手足を動かしたりして身振り手振りでも体に異状がないことを伝える。
すると、少女の表情がみるみる明るくなっていった。
「本当によかったです……意識不明の状態で倒れてて話しかけても反応がなかったので心配してたんですよ」
初対面の俺のことをここまで心配してくれるなんて本当に優しい子だ。
最初に見つけてくれたのがこの子でよかったと心から感じた。
「あ……そういえば自己紹介がまだでしたね。初めまして……シャルナと申します。“シャル”と呼んでください」
少女が礼儀正しくお辞儀をする。
俺も名を名乗ることにした。
「俺は荒岸達真だ。俺のことは“達真”でいいよ。よろしくな、シャル」
シャルがあまりに気さくで友好的だったため、ついファーストネームで呼ぶことを許してしまう。
「アラギシタツマさん……変わったお名前ですね」
「そんなに変わってるかな……」
ごく一般的な日本人の名前だと思うが、シャルにとっては聞き慣れていない名前らしい。
「はい、この辺りでは珍しいですね。ですが、素敵なお名前だと思いますよ。こちらこそよろしくお願いします、タツマさん!」
これでとりあえず自己紹介は終わったし、相手の名前を知ることもできた。
名を明かしてくれたのだから、もう警戒する必要はない。
俺は警戒心を完全に解き、ずっと気になっていたことをシャルに訊いてみることにした。
「ところでシャル……訊きたいことが二つあるんだけど、いいかな?」
「はい、何でしょうか?」
「ここはどこなんだ?」
ここがどこなのか。それは一番知りたかったことだ。
ちょっと気を失っている間に周囲の風景がまったく見覚えのないものに変わっていたのだから、現在地を把握するのは最優先事項なのだ。
その質問にシャルが答える。
「ここはアルリア王国の中心部にある王立自然公園です。タツマさんはこの自然公園の敷地内で倒れていたんですよ」
「……アルリア王国? それに“王立”の自然公園……?」
初めて聞く国名に戸惑いを隠せなかった。
一応、王室のある国は現代にも存在するが、“アルリア”などという国は聞いたことがない。
ここは本当に地球なのだろうか……?
「あ……もしかして……」
そこまで考えて、俺はひとつの可能性に気づく――もしかしたら、地球とはまったく異なる世界、つまり異世界に移動してしまったのではないかということに。
正直、別の世界が存在することも何の前触れもなくその異世界に移動してしまうこともにわかには信じることができない。ただの夢なのではないかとさえ思ってしまう。
――いや、前触れはあったか……
冷静な思考を取り戻したことで、自分の身に起きたことが少しずつ思い起こされてゆく。
俺は会社帰りに小さな公園に立ち寄り、そこで謎の光源に吸い込まれてしまった。
アルリア王国などという聞いたことのない国に飛ばされてしまったのは間違いなくそれが原因だろう。
念のため、ポケットからスマホを取り出して地図アプリで現在地を確認してみる。
が、スマホは圏外になっており、モバイルデータ通信ができない状態となっていた。これではオンラインに接続して使用することが前提の機能やアプリは使えない。
現在地を特定するどころか、誰かに助けを求めることすらできなくなってしまった。
「……何となくそうだろうなとは思ってたけど、やっぱ通信環境なんて整備されてるわけないよな……」
現代人にとって生活必需品と言っても過言ではないガジェットが使えないのは非常に不便だが、そのことを嘆いていても仕方ないだろう。
ここが異世界かもしれないと疑った時点でスマホが使えないことも予想できたので、そこまで落ち込んだりはしないのだ。
使えないとわかった以上はいたずらに充電を消費するわけにはいかないので、電源を落とすことにする。
そして再びポケットの中にしまおうとするが、このガジェットに興味を持ったのか、シャルが不思議そうな顔で訊ねてきた。
「あの……それは何ですか?」
「何ってスマホだけど……知らないの?」
「はい。初めて見ました」
物珍しそうにスマホを見つめるシャル。どうやら本当に知らないようだ。
「え~と……これは俺の生まれた国ではほとんどの人が持ってるものなんだけど……」
「そうなんですか?」
「まぁ、正解には先進国と呼ばれる国の国民は大多数が持ってると思うけどね」
「タツマさんの出身国はどういった国なのでしょうか?」
「日本っていう極東にある島国だよ。知ってるかな?」
「いえ、聞いたこともありません」
「じゃあアメリカとかフランスとかドイツって知ってる?」
「ごめんなさい……全部わかりません」
シャルが首を横に振る。
――これは……もう異世界で確定だな
いくつかメジャーな国を挙げたが、どれ一つとしてわからないのはさすがにおかしい。スマホを知らないというのも不自然だ。
ここが異世界ではないかという疑惑が、今この瞬間確信に変わった。
俺が暮らしていた世界とは何もかもが異なるのだ。
そうだとすれば、この世界の住人であるシャルが、地球上の国や文明を知らないのは当たり前と言える。
「異世界に飛ばされちゃったか……これからどうしようなぁ……」
本来なら絶望してもおかしくない状況のはずだが、現地人と知り合えたおかげで心強さを感じているのか、俺は自分でも驚くほど冷静さを保っていた。
――まぁ、これからのことは後で考えよう。それより今はシャルのことを知るのが優先だ……
とりあえず一つ目の質問には答えてもらえたので、次はシャルのことについて訊いてみることにした。
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