【ケース3】2年B組 人肉食研究部所属 千代呂木笹美

 変態たちが部室にお悩み相談にやってくることも、ゆあるさんがスクール水着姿で毎日ゲロを吐きにくることも、そのゲロを舐めてと言われて舐めることも、なにもかもをわりと受け入れ始めた七月。

 今日も今日とてまた一人、我が新聞部に訪問者が現れた。

「ウチが部室に置いてた肝臓が誰かにかじられててさ、犯人捜してくんないかな?」

 ボーイッシュなショートカットと吊り目が印象的なその女の子は、かなり怒っている様子で僕にそう言った。……うーん、なんか『肝臓』って聞こえた気がする。

「あっ、チョロちゃん! ようこそパラフィリ部へ!」笑顔で勝手に部の名前を変えてしまうゆあるさん。「あ、紹介するね。この子、私のクラスの千代呂木ちょろぎ笹美ささみちゃん。人肉食研究部の部長さんなのー」

「………………えっと、なに部……?」

「人肉食研究部だよー。人肉を、食べる、部。ねーチョロちゃん」

「ま、部っつってもウチ一人だけどねー」カラッと笑う千代呂木さん。「てかアルっち、そいつがウワサの彼氏?」

「ちょっ、な、なに言ってんのチョロちゃん! 彼氏とかじゃないよー!」

 真っ赤になって手をぶんぶん振るゆあるさん。千代呂木さんはニヤニヤしながら、

「えーそうなのー? でもアルっち、いっつもそいつの話ばっかしてるからさー、てっきり付き合ってんだと思ってたんだけど」

「ち、違っ、まだ私たちそんなんじゃおげべぼっ」

 語尾でゲロを吐いたことを除けば照れてるゆあるさんは無性に可愛くて、彼氏と言われたことも意外と僕はまんざらでもなくて、うん、いや、あの、

「……人肉を、なにするって?」

「はあ? だから食べるっつってんじゃん。彼氏、ウチの話ちゃんと聞いてるー?」

 呆れ顔で大きくため息をつく千代呂木さん。……えー、マジかー。

「あ、噂坂くん、あらかじめ言っておくけど、今回は絶対に私じゃないからね!」ゆあるさんが僕の鼻っ面をビシッと指差す。「人のお肉を食べるのは人肉食研究部だけのテリトリーで、それは絶対に侵害しないって、これは水泳部と人肉食研究部の間でしっかり取り決めてあるの。もしこれを破ったら、私はチョロちゃんに食べられるんだよ。ね、チョロちゃん?」

「うん、そういう決まりだね」腕を組み、こくこく頷く千代呂木さん。「大丈夫だよ。ウチ、アルっちはそんなことしないってわかってるから」

「うん。……信じてくれてありがとね、チョロちゃん」

 にこっと笑うゆあるさん。そしてくるっと僕のほうを向き、

「噂坂くん、早く現場に行こ! チョロちゃんを困らせる犯人、私、絶対許せないよ!」

「あ、うん。えーっと……ちょっと先行っててくれるかな。僕、やることあって」

「え?」一瞬、不安げな表情を浮かべるゆあるさん。「うん……わかった。でも、すぐ来てね? 絶対だよ?」

「うん、うん」

 部室を出て行く二人の後ろ姿を見送って、僕はゆっくりとスマホを取り出した――。


 結論。

 警察呼んだ。

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