第21話 レベルアップが必要なのでメイドを雇います


「────さま、──オウ様・・・しっかりしてください、セイオウ様」


 エリス姫の声に、俺は正気を取り戻した。


 どこかのソファー、裁縫工房のソファーに寝かされていたようだ。


 周りで不安げに俺を見つめるのはエリス姫に、後から駆け付けたらしきマイヤ事務官、レイナの顔もある。 


「俺は、どうしたんだ?」


「気を失われたのです。時間にして、30分くらいですけど」


 姫が答える。急に意識を失ってしまったようだ。


『レベルが低いくせに、魔法を一日で使いすぎですよ~』


 マカロンが現出して、説明してくれる。


『魔法を使いすぎるといろいろと副作用がでたり、最悪の場合死んじゃいますから、注意してください』


「そうか、MP切れか・・・」 


 最後にローションをありったけ召喚したが、あれのせいでMPが切れたらしい。


『正確には、MPじゃなくてSP切れですけどね』


「SPとは何の略だ?」


『セイリョク・ポイントの略です』


「精力ポイント・・・」


 やな略だった。


『レベルが上がればSPも増えます、こればっかりは、レベルを上げるしかないですね』


「わかった。ただ、レベルを上げる方法は確か・・・」


『エッチなことをすればいいのです』


「う~ん」 


 そうだったな。まあモンスターを倒せと言われるよりかはいいのか。


『ただすればいいというわけではありません。〝性王〟様との相性が良くて、忠誠心と愛情がある女性とでないと、効果は低くなります』


 ふう、いろいろと注文が多い。


「とにかくレベルをあげてSPを増やさないと」


 アイテムを作れなければ話にならない。風俗魔法とアイテムクリエイションが使えないなら、経営再建など不可能だ。


「そういう事でしたら、フロアメイドを雇われるのがよろしいかと」


 話を聞いていたエリス姫が、微笑みながら答える。


「フロアメイドとは?」


「貴族の主人と同じフロアに部屋を与えられ、お仕えするメイドの事です。格下ですが妻の地位を有することから、側室メイドともいわれます」


「ふむ」


 結婚もしていないのに側室というのも妙だが、この世界のしきたりなら仕方がない。


「側室はわかるが、なんでメイドなんだ?」


「セイオウ様は男爵の位を持つ貴族様ですから、お屋敷の掃除をする者も必要ですし、それにセイオウ様はエッチなご奉仕をしてくれるメイドさんは大好きでしょう? きっとレベルもたくさんあがります」


「みなまで言わなくていい」 


 なんで俺がメイド好きだと知っているんだ?


 というか、こういうエロい話は、マイヤ事務官はともかくレイナの前で話してほしくない。


 実際レイナは、気まずそうな表情で頬を赤らめ、ずっと沈黙している。


「わたくしにお任せください。きっとセイオウ様にとって最高のお相手を説得してみせます」


「わ、わかった。任せる」


 妙に自信ありげなエリス姫。とりあえず彼女に任せてこの話題を打ち切る。


「それよりも、さっきの兵士は何者なんだ?」


「駐屯兵の小隊長のロドリといいます。駐屯兵団でも最も素行が悪く、評判の悪い男です」


 マイヤ事務官が答える。


「親衛隊が駐屯兵団長と交渉している隙を狙って、工房に押し寄せたようです。おそらくは、彼の独断でしょう。独断行動が多い男ですから」


「ふむ」


 小隊長が独断で動いたか。軍隊は規律が命だ。本当ならどうしようもない軍隊だ。


「駐屯兵団長はどんな男だ?」


「ゲジンという男です。粗野で強引ですが、話せばわかる男です」


 マイヤ事務官はそういうが、怪しいものだ。


(もし駐屯兵団長とグルなら、兵団長はかなりの食わせ物だな・・・)


 親衛隊が自分の相手をしている隙に、ロドリに略奪を指示したことになる。


 どちらにしろこの国の問題の根本は深く(根は深く?)、解決には時間がかかりそうだった。


「とりあえず、ここにもいられない。王城(仮)に帰ろう」


「であればセイオウ様はこのままお屋敷に向かってください。わたくしは、やることがありますので」


 裁縫工房に残るというエリス姫。俺はマイヤ事務官につれられて、俺の住処である屋敷へと向かった。




「お屋敷はこちらとなります」


 マイヤ事務官に案内された屋敷についた時には、日はとうにくれていた。スマホで時間を確認したが、午後7時だった。


絶賛衰退中であるこの国が俺にくれた屋敷は、当然のごとく小さなものだった。


(大きさは、日本の大きめの一戸建てくらいか)


 俺一人が住むには大きすぎるものだが、お屋敷というには小さい。お屋敷(仮)と呼ぶことにしよう。


 とはいえ、掃除をしてくれるメイドが欲しい広さではある。


「姫様から連絡が来ました。フロアメイドを志願する者が来るとのことです」


「そうか、わかった」


「私は仕事がありますのでここで。明日、13時に姫様が来られるそうです」


 マイヤ事務官はそういうと、俺を客間に置いたまま王城(仮)に戻る。志願者とやらとの謁見には誰も同席しないらしい。


(俺が拒否することは考えていないのか。よほど人選に自信があるんだな)


 俺はソファーで一人で待つ。


 セイオウである俺のフロアメイドに志願するなど、おそらく娼館の娘の誰かだろう。選り好みできる立場ではないので、誰が来ても受け入れるつもりだった。


 マカロンは忠誠心や相性も重要だといっていたが、そこは目をつぶるしかない。


(義務的な作業になってしまうが、プロなら問題ないはずだ)


 とはいえ気にならないわけではない。俺は固唾をのみながら、志願者が入ってくるのを見守る。


──ガチャ──

 

 ドアがたどたどしく開かれる。

 

 そして入ってきた人物に、俺は思わず目を見開き、その場で立ち尽くしてしまった。



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異世界に召喚されたが『聖王』じゃなくて『性王』(風俗王)だったので、下品だと追放された。仕方がないのでチート風俗魔法で風俗国家を再建します。 @yokosimaikuoo

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