第19話 まさかの担保は俺の×の穴


「お待ちしておりました。セイオウ様」


 アブドルの屋敷の門で、鎧を着た兵士数名が出迎えてくれる。どうやら屋敷の前で、待っていてくれたようだ。


「私の名前はカノン、フリージア王国親衛隊の隊長をしております」


 隊長と思しき女が自己紹介する。


(親衛隊、エリス姫直属の軍隊か。女ばかりの国だから、兵士も女性か)


 女性が着るにはやや重そうな鎧を身に着けている。他の兵士たちも、みな女性だ。


「姫様が城でお待ちです。参りましょう」


「ああ」


 そういえば迎えをよこすと姫が言っていたな。多額の小切手を持っているので、護衛はありがたかった。


 カノンたちはまるで俺を連行するかのように四方を厳重にかこむと、急ぎ足で王城へと向かった。


「あれが、王城か」


 ほどなくして城についた。城のつくりは石畳の中世ヨーロッパ風のもの。

 城の周りは小高い丘になっており、そこからは3方は海のようだ。潮の匂いがすると思ったが、首都は半島だったのか。


 丘の上から、全体を一望できた。三方を海が囲い、残る一方をヴィクトリーナの大城壁が守る。難攻不落の大都市といってよかった。


(まあ金と兵士さえあれば、の話だが)


 この国財政状況では、城壁の修理費はもちろん、城壁を守る守備隊を維持する金はない。難攻不落の防御は穴だらけで、まるで意味をなしていない。


 それでも間近で見る王城は壮観なものだった。


「セイオウ様、お待ちしておりました」


 ドレスを着たエリス姫が、門の前で出迎えてくれる。


「そのご様子では商談はうまくいったご様子ですね。とにかく城で、お話を伺いましょう」


 そういうとエリス姫は、城とは別方向に向かう。


「? 城はあちらはないのか?」


「あの城は差し押さえられてしまっています」


 エリス姫が指さす。確かに城には赤いシールの様なものが張ってあった。


「赤札だ! この世界にもあるのか」


 借金の差し押さえに使われる赤いシール。それはこの世界でもあるようだ。


「ですから、こちらで暮らしております」


 エリス姫が連れてきたのは、豪華な城の隣にある、城というよりも砦に近い建物だった。ぶっちゃけ、アブドルの屋敷の方がずっと豪華で大きい。


 王城(仮)といったところか。城の中の調度品も、よく見れば赤いシールがたくさん張ってある。


「何しろ我が国は絶賛衰退中ですので」


 俺の言いたいことに気づいたエリス姫は、いつもの言葉を続ける。


(衰退しすぎだろう、この国は)


 俺は心の中でそうつぶやきながら、エリス姫の後に続いた。




「お話は理解いたしました。しかし、担保がセイオウ様ご自身とは・・・」


 王城(仮)の客間でアブドルとのいきさつを話す。上機嫌で聞いていたエリス姫だったが、担保の話を聞くと、姫の顔が目に見えて曇った。この娘の不機嫌なそうな顔は、初めて見た気がする。


「他の担保では、いけなかったのですか?」


 エリス姫は、俺を担保にした事が、相当不満なようだ。


「仕方なかった。なにしろ、〝我が国は絶賛衰退中〟だからな」


 俺は姫の口癖で返すと、姫は「むむ」と口をへの字にする。初めて年相応の表情になった。


「姫様、経営改善に成功すればよいのです。失敗した場合は、すべてが終わりますから」


 マイヤ事務官の言葉に、エリス姫は「そうですね」と頷く。


「今回は目をつむります。しかし、御身にかかるような決定は、次回からわたくしに相談してください。対外的にはセイオウ様はわたくしの所有物・・・いえ、お客人なのですから」


 何やらさらりと物騒なことを言った気がする。


「特にアブドル様の祖国、ダッダース首長国は、〝男色〟が盛んだと聞きますからね」


 いじわるそうに微笑む姫。


「だ、男色!?」


「もし彼らの手中に収まれば、毎夜毎夜、屈強な男たちに輪〇されてしまうでしょう。何ておもしろ・・・いえ、おそろしいな事でしょうか」


 さらにとんでもないことを口にする。しかも面白がっていやがる。


「ですから今後は二度と、このようなことはなさらないでください。特にダッダース首長国については、注意してください」


「はい」


 尻穴で脅迫された俺は、素直に頷く。まるでアブドルの元に出奔しないようにクギを刺された気分だ。


「では、この件で責める事については、ここまでにいたしましょう。経営再建の詳細については、明日裁縫工房と娼館に伺い、指導していただきましょう」


「ふむ。それにはまず現物を用意しないとな」


 裁縫工房の女たちに渡すサンプルの女性下着に、娼館の娘に渡す宣伝用の下着、他に娼館に置くボディソープは人数分は必要になる。


 全て〝アイテムクリエイション〟で作り出すことになる。


 俺は両腕に力を集中させ、アイテムを創造しようとするが──


「姫様、たいへんです!」


 女性親衛隊員が、真っ青な顔をして部屋に駆け込んできた。


「何事ですか?」


「それが、駐屯兵の方たちが、未払い駐屯費を請求しに来ているのです」


「『今返すお金はない』と断るように言ったはずですが?」


「それが、ここだけでなく、裁縫工房の方にも向かっている様なのです」


「何ですって?」


 エリス姫の顔色が変わる。


「生糸や裁縫機械を接収されると、裁縫工房が維持できません!」


 それはまずい。金を返すどころではない。


「マイヤ、カノン隊長と親衛隊はここに残します。ここに来た駐屯兵団長は何とかしてください。わたくしは、裁縫工房に向かいます」 


「待ってくれ、エリス姫。俺も向かう」


「はい、よろしくお願いします」




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