第18話 特殊スキル〝ネトリ〟を習得してしまった
「ふう・・・」
俺はアブドル宅の客間でハーブティをのみながら一息ついていた。
あれから別室で一人で湯を浴びて泡を流し、服を着て戻ってきたのだ。
不発に終わっり不満げだった俺のエクスカリバー()はようやくおとなしくなった。
(しかし、イリスはいい女だったな)
脳裏に浮かぶのは、頬を赤らめながら献身的に奉仕するイリスの姿。この世界の女奴隷は、代金と引き換えに一生尽くしてくれるという。
(もしイリスが売りに出されていたら、何千万、いや何億だしても購入したかもしれない)
一生その返済に追われることになっても、喜んで応じただろう。エリス姫やレイナに先に出会えてて、よかった。
(しかし、商談はあれでよかったか?)
いくらネトラレ好きのアブドルとはいえ、少々危険な賭けだった。
まあ間男の真似事は、予想以上にうまくできたが、自分にあんな才能があるとは思わなかった。
「うっ」
──パラッパラッパっパー──
俺のレベルが上がる音がする。むう、これは?
──イクオは経験を積んだ。レベルが上がった。〝ネトリ〟のスキルを覚えた──
おお、なんか妙なスキルを覚えたぞ。
──〝かしこさ〟が1、上がった。〝セイリョク〟が、15、上がった。〝優しさ〟が、5下がった──
しかも、下がってはいけないステータスが下がっている気がする。なぜレベルが上がって、ステータスが下がるんだ?
──スキル〝サイコパス〟を覚えた──
しかもなんか要らんスキルを覚えてしまった気がする。
俺は恐る恐る両方のスキルをチェックする。
スキル〝ネトリ〟・・・パートナーがいる女性の好感度上昇率がアップ
スキル〝サイコパス〟・・・良心の呵責を感じにくくなる
(う~ん、どちらも今回の行為によるものか。こういう影響があるとはな)
気を付けないと変な方向にレベルアップしてしまいそうだ。
「──ふう、お待たせしました、セイオウ殿」
そんなことを考えていると、アブドルが客間に戻ってきた。
アブドルはつきものが落ちたようなスッキリをした顔をしている。
「お待たせいたしました」
続いてイリスが入ってくる。再び頭からフードとスカーフをかぶっているため、目元しかわからない。髪や化粧を直す時間があったとは思えないため、フードで隠しているのだろう。
「いいえ、お気になされずに」
俺は起立し、二人を出迎える。あくまでこちらは金を借りる立場なのだ。
「つまらないものですが、お納めください」
俺はアイテムクリエイションで作成し、テーブルの上に用意しておいた物を差し出す。
ボディソープと、赤いセクシー下着だった。
本当に〝つまらない物〟だったが、この世界では貴重な贈り物だ。
「おお、いただけるのですか、それはありがたい」
素直に謝意を示すアブドル。
「こちらの赤い下着は、先ほどのものよりやや過激なものとなっております」
「・・・さ、先ほどの下着よりも、ですか?」
イリスの目元は真っ赤だ。目の前に置かれているのは、もはや赤いヒモでしかない。今夜にでも、つけろと命じられるのだろう。
「それは楽しみですな、はっはっは」
アブドルが愉快そうに笑う。白い歯が見える。上機嫌だった。
「それで、ご融資の話ですが、1億コルを2か月間、利子は1割で貸していただけますか?」
俺はすかさず融資の話をする。ここが本題、正念場だった。利子が法外に高い気がするが、この世界での相場は、こんなものらしかった。すべて絶賛衰退中のフリージア王国が悪い。
「ふむ。セイオウ殿の異世界の道具を使ったビジネス、必ずや成功するでしょう。喜んで融資させていただきます」
(やった!)
アブドルの言葉に、俺は心の中で歓喜する。
「しかし──」
「しかし!?」
「ビジネスはどんなことが起こるかわからぬものです。貸す側としては、やはり担保をいただきたい」
快諾してこちらを喜ばせ、しかる後に厳しめの条件を飲ませる。老獪な商人がよく使う手口だ。やはり食えない男だった。
だが担保なら用意している。俺はスマホの提供を約束するつもりだった。スマホの価値を理解させるのは時計以上に難しく、骨が折れそうだったが、仕方ない。
「ワシが求める担保はセイオウ殿、貴方です」
「俺ですか!?」
予想外の条件に、俺は思わず声をあげる。
「もし返済が不可能の場合、ワシに仕えてくれればよいのです。悪いようにはしません」
ふむ、アブドルは俺に1億コル以上の価値を見出した様だ。
悪い条件ではない。どうせ失敗すれば何もかも終わる。それにアブドルとはうまくやっていけそうな気がする。
「わかりました。その条件でお願いします」
「商談成立ですな。よかったよかった」
「おめでとうございます」
商談成立を喜ぶアブドルと、祝福の言葉をくれるイリス。
大変だったが、何とか当面の軍資金を確保した。
「では、城に報告に戻らねばなりませんので、これで」
俺は小切手受け取ると、屋敷を後にする。
「ぜひ、次なるビジネスが決まった際には、教えていただきたいものですな」
「はい。その際はぜひイリスさんにまた協力をお願いします」
「ひゃ!」
俺の言葉にイリスは一瞬だけ全身を〝ピク〟っと震わせた。それは恐怖によるものなのか、それとも期待によるものなのか、フードで隠された表情からは読み取ることができなかった。
「わ、わたくしにできることでしたら・・・」
そして目元を真っ赤にしながら、そう答えてくれた。
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