第6話 初魔法は亀甲縛り

『パラッパラッパー・・・イクオ様はレベルがあがりました』


 突然妙なことを言いながら光と共に出現したのは、羽の生えた小さな女の子だった。


 身長は20センチくらいか、十代半ばの、艶やかな紫色の髪をした少女だ。姿かたちと服装はおとぎ話で語られる妖精そのものだ。 


『わたしはフレイヤ様にお仕えする妖精マカロンです。今後、イクオ様にお仕えすることになるのでよろしくです』


 俺たちの目の前で、でくるりと空中で一回転するマカロン。どうやら空も飛べるらしい


「フレイヤ様の御使い。言い伝えの通りですわ!」


 したり顔で、何やらはしゃぐいでいるエリス姫。どうなっているんだ?


『え~とですね、簡単に言うとわたしはイクオさんのお目付け役ですね。レベルが上がったりすると、報告に参ります』


「レベル、この世界レベル制度なの?」


『はい。普通の人はレベルが見れないんですけど、神々の使途である貴方達は能力を数値化し、レベルとして把握することができます」


 そうなのか。一気にゲームっぽくなったな。


『いまはイクオさんのレベルが上がったので、報告に来たんです』


「レベルが上がるのはいいが、なんで上がったんだ? 俺は別に敵を倒したりしていないぞ」


『今のは、エリス姫が密着して、甘い言葉をささやいたからでしょうね。綺麗な少女に〝ご主人様〟と呼ばれたいというイクオ様の密かな願望が叶ったから、レベルが上がったのです』


「どゆこと!?」


『〝風俗王〟の特別職を持つイクオ様は、魔物を倒してもレベルは上がりません。煩悩を満たしたりすることによって、レベルが上がるのです。故に、今回のレベルアップはエリス姫のおかげですね』


「やりました!」


 嬉しそうに両手を合わせるエリス姫。

 どうやら体を密着させたり俺を変な呼び方で呼んだのは、そのためだったらしい。

 レベルアップは普通の方法ではできない、か。


 考え込むと辛くなりそうなので、今は考えないでおく。


「まあいいや。それで、どれだけレベルがあがったんだ?」


『えーと、体力が1、力が1、賢さが1、運の良さが7あがりました』


(なんか上昇率が微妙に低い気がする。あと運だけよく上がるとか、遊び人みたいな上昇タイプで嫌だ)


『あと、〝セイリョク〟が25上がりました』


 〝性王〟の、〝セイリョク〟。もしかしてあの〝精力〟か!?


「何ですか、セイリョクって?」


『それはですね~、男の人が──』


「言わんでいい! そうだ、魔法とかは無いのか?」


「今回のレベルアップで覚えたのは、〝風俗魔法ローション〟ですね」


「ふ、風俗魔法ローション・・・それはやっぱり?」


「はい。手からローションを出す魔法です。一応〝補助魔法〟に分類されます」


 何を〝補助〟する魔法なんだよ。


「・・・他にスキルとかは無いのか?」


「えーと、アイテム作成能力で、〝ボディーソープ〟を作成可能になりました」


 ボディーソープ。完全に風俗アイテムですはい。


 宮廷で俺のスキル適性を調べていたが、そこで判明した通りだ。


 風俗に関係した魔法やアイテム作成しか覚えないらしい。


「・・・武器とかは作り出せないのか?」


『無理ですね』


「レベルが上がっても?」


『たくさんローションを生み出せるようになるだけです

 あっ、防具作成は覚えましたよ』


「よかった。せめて防具だけでもあったか」


『セクシー下着だけみたいですが』


「セクシー下着かよ!」

 

 それは防具なのか? 限りなく裸に近い装備品な気がするが。


「・・・せめて、薬草とかは?」


『滋養強壮によい薬草とか、媚薬なら作り出すことができるようになります』


「他に使えそうな魔法はないのか?」


『そうですね、補助魔法ですが、〝玄人の目〟という魔法を習得しました』


「〝玄人の目〟はどんな魔法なんだ?」


『〝玄人の目〟は、嬢ボーイの士気を色で把握することができるスキルです」


(・・・玄人とは、お店を見る玄人ってことか)


 風俗の達人は、ボーイや嬢を見るだけで、その店が地雷かどうかを把握することができるという。知らんけど。


『あと、〝性癖スキャン〟のスキルを習得しました」


「そっちは説明しなくていい。なんとなく理解できる」


「〝性癖〟とは何でしょう?」

 

『え~とですね・・・』


「説明しなくていい」


 俺は姫の質問に答えようとしたマカロンの言葉を遮る。


「ちなみにジョブ、職業は何なの?」


『もちろん風俗王です。ただ習得度は1%未満ですか」


「そうか・・・」


 仕方ない。元の世界に戻る方法もわからないし、しばらくは風俗王として生きるしかない。魔物とかに襲われませんように。


「お気を落とさないでください。まっとうな〝聖王〟様だと、他国に取られちゃいます。〝性王〟のイクオ様だからこそ、我が国に来ていただくことができたのです。何しろ我が国は、絶賛衰退中なので」


 無邪気に胸を張るエリス姫。


 衰退中な国を誇る姫っていったい何なんだろう。


 ますますこの娘の実態がつかめなくなってきた。


『あっ、言い忘れてましたけど、攻撃魔法を一つ覚えてました』


「おお、それはなんだ?」


『緊縛魔法です』


「・・・」


 なんで最初に覚えた攻撃魔法が縛りなんだよ。


 いっとくが、そんな趣味はないぞ。


「まあ、攻撃魔法ですか。それは素晴らしい」


 興味を示すエリス姫。


「有事の際になって初めて攻撃魔法を使うのも、不用心です。できればこの場で、試していただけませんか?」


 姫の意見も理解できなくもない。数少ない攻撃魔法なら、試し打ちしてみるべきだ。


「わかった、試してみよう。どうすればいい?」


『右手に魔力を集中させ、心の中で叫ぶだけで発動します』


 俺はマカロンのいう通り、右手に魔力(?)を集中させるイメージをし、


──風俗魔法 緊縛──


 木に向けて、解き放つ。


 だが俺の右腕から放たれた魔力の塊は、180度近く折れ曲がり、木と反対方向にいたエリス姫に向けて殺到した。


「きゃああああああ」


 姫の悲鳴。ドレスの上から緊縛される姫。


〝亀甲縛り〟


 胸を強調し、股間に刺激を与える緊縛術。江戸時代の昔より我が国に伝わる伝統ある縛り方だった。今もソニ秘術は脈膜と受け継がれている。(主にAVで)


「姫、何事ですか!?」


 姫の悲鳴に血相を変えて馬車の中に入ってきたマイヤ事務官。


「姫様に何て不埒な事を!」


「いや、俺のせいじゃないぞ!」


 姫が試してくれと言ったんだ。


 どうやらこの魔法は、向きに関係なく、一番近い人間を自動的に束縛する魔法らしかった。


 荒縄はドレスの上から姫の体のラインを強調するように拘束していた。


「ううう、キツイです・・・あちこち圧迫されて・・・」


 そして頬を赤らめながら縛られているエリス姫の姿は、少々危険な魅力を放っていた。

 

──パラッパー、イクオはレベルが上がった──


『あ~、ちょっと興奮しちゃいましたね、イクオさんの変態』


「ちょ、俺のせいか?」


『レベルが上がったのがその証拠です』


「いいからほどいてください~」


 口論している俺とマカロンに対し、姫が再び悲鳴をあげる。


「ほどくにはどうすればいい?」


『魔法の縄ですから、魔力を消せば消えます』


 言われた通り姫の身体から魔力を消すイメージをすると、直ぐに姫は解放された。


「ふう、ようやく解放されました。びっくりいたしました」


 荒縄から解放された姫が、ホッと一息つく。


「・・・このことは他言無用に願います」


 マイヤ事務官は、頭を抱えながらため息をついた。 


 とりあえず、事故だという事は理解してくれたようだ。


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