第46話 放課後

 その日の放課後。部長と白石先輩が来る曜日とあって、部室内は昨日より賑やかだった。

 人数が多く盛り上がっているボドゲ対戦をBGMに、俺は楽しみにしていた『義姉と幼馴染みが修羅場です』の二巻を読んでいる。


 この小説は恋のライバルである義姉と幼馴染みが主人公を取り合う騙し合いラブコメだ。

 攻めあるのみで主人公にアタックし続けていた前巻から打って変わって、冷たい態度を取り始める今巻は読んでて面白く、続きが気にならないわけがなかった。

 逸る気持ちに従いページをめくろうとした時だった。


 「あー思い出した!」


 バンッという音と共に叫び声が聞こえ集中力が途切れる。

 俺はラノベから視線を逸らさずに、耳をそばだてる。


 「うぉ⁉ 突然どうした茅野ちゃん?」


 不意の大声に驚いたのは部長だ。


 「聞いてくださいよ! 丸口さんが二人三脚に出るんですけど相手を教えてくれないんです」


 諦めてなかったのか。というか、そんなに気になるものか?

 自分の話題ということもあり、俺は成り行きを見守ることにした。


 「そんなの間違いなく女子に決まってるじゃん」

 「ふっ、有り得ないな彼方だぞ?」


 食いつくように反応した麻倉に、嘲笑を浮かべる吉野。よし、お前は後でデコピンの刑だ。

 部長が『いや』と声を上げる。


 「普通に佳乃だろうな。同じ赤組だしよ」

 「あぁ~、今朝やたらと機嫌が良かったのはそういうことだったのね」


 確信めいた部長の言葉に白石先輩が頷く。

 ある程度姉さんと俺の事を知ってる部長にはお見通しか。


 「丸口さーん! お姉さんと走るってほんとですか?」


 にこりと首を傾げてこちらを見つめる茅野。

 答えたくないので、俺はラノベを読むふりを継続する。


 「……」

 「これは確定だね。姉弟とはいえ佳乃先輩ほどの美人さんと走れるなんて役得だね」


 椅子から立ち上がりこちらにやってきた麻倉は『やるじゃん』とばかりに肘で小突いてくる。うざい。

 さすがに無視を貫けずラノベを置いた俺は、ため息をつきながら麻倉の肘を振り払った。


 「役得なもんか、姉さんと走るとこを見られるとか地獄でしかない」

 「丸口は佳乃と走るの嫌なのか?」

 「嫌とかじゃなくて恥ずかしいんですよ。部長だって吉野と一緒に二人三脚はしないでしょ?」


 俺の家と構成は逆だけど部長にも吉野という二つ下の妹がいてブラコン気味だ。

 気持ちをわかってくれるはずと期待して部長を見る。


 「同じ組ならしてもよかったけどな。年一の祭りだし楽しまなきゃ損だろ」

 「残念だったな彼方。ボクと佑助の絆を甘くみるな」


 部長の言葉を聞いて眉をひそめる俺に、勝ち誇ったように口角を上げる吉野。腹立つな。

 後で執行する吉野への刑を考える俺の肩を、いつの間にか隣に座っていた麻倉がポンポンと叩く。


 「まぁまぁ落ち着きなよ丸口くん。私もお兄ちゃんと弟がいるし仲も悪くないけど、二人三脚はさすがに無理だからね」


 味方だよと親指を立てる麻倉。へぇ、一人っ子だと思ってた。

 

 「家庭によってちげーだろうけどよ、実際嫌ならちゃんと丸口の素直な気持ちを伝えた方がいいぜ」


 お前が教えてくれたんだろと、交流会の時に俺が伝えた言葉を口にする部長。

 一応、姉さんには二年前に伝えたんだけどな。……でも、俺が高校に入学してからの姉さんは少し言動が過剰になってる気もするし、部長の言う通りもう一回ちゃんと姉さんと話してみるのもいいかもしれない。


 「……そう、ですね。機会があれば伝えてみます」

 「あっそれやらない時のセリフだ」


 うるさい黙っとけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る