第45話 種目決め
水曜日。
三時間目を迎えた体育の授業。
体育館の中は一年生から三年生までの全学年が揃っていた。
「今から赤組と白組に別れて種目決めを行うので各自移動を開始して下さーい」
三年生と思わしき人の号令に従い移動を始める生徒たち。俺も自分の属する赤組へと合流を果たしぐるりと顔触れを確かめる。
姉さんと三人娘以外で俺が知っている生徒は、二人。
茅野姉こと
まあ、知り合いだけど特に仲がいいわけでもないからいてもいなくても変わらないな。
「丸口さーん」
と、整列中の俺の耳に沈んだ声音が届いた。
「茅野さん……」
「聞いてくださいよ、朝陽が二人三脚に丸口さんを誘えってうるさいんですよ~」
ぐったりとした様子で隣に腰を下ろす茅野。どうやら相当しつこく絡まれたようだ。
「それは災難だったね」
「ほんとですよ。丸口さんが二人三脚なんて出てくれるわけないのに」
「よく分かってるじゃん」
「私だって学習するんです。丸口さんを説得するには外堀を埋める必要があるっていのりちゃんが言ってましたから」
おい麻倉、余計なことを吹き込むな。
「──それでは、これから種目を決めていきますので参加希望の種目に挙手をお願いします」
学年別に整列を終えたことを確認した上級生の女子生徒が種目の集計を取り始める。
「意外と障害物競走が人気高いんですね」
「玉入れが一番人気だと思ってた」
「それだけは絶対にありえないですね」
なんでさ。一番楽な競技じゃん。
「──次は二人三脚です。参加希望の人は挙手を」
聞こえてきた悪魔の競技に俺は潔く手を挙げる。
すると、驚いたように隣から声が上がる。
「まっ丸口さん二人三脚出るんですか⁉」
「まあ、出たくはないんだけど」
ここでスルーすると後がめんどくさいからな。
何を焦っているのか顔を寄せてくる茅野。
「えっ、だ、誰と走るんですか?」
「いや別に誰とでもいいじゃん」
姉さんと走るとか言いたくないし。直にばれるとしても今は全力で黙秘しよう。
「まさか女子と走るんですか⁉」
「……」
「答えて下さいよ丸口さーん!」
沈黙を貫く俺の左肩を掴み揺さぶってくる茅野。脳が揺れる。
めんどくさいと思いながら揺れていると、突き刺すような鋭い視線を感じて右を向く。
その正体は俺のいる列から三列隣、三年生の列に座る姉さんだった。ゆらりと黒の長髪を垂らし、瞬きもせずにどす黒く染まった黒目をこちらに向けて何やらブツブツと唱えている。
大方、ちゃんと二人三脚に手を挙げてるかを確認したら、茅野に絡まれてる俺が目に入って癪に障ったのだろう。
「茅野さん次はしっぽ取りだから、出るなら手を挙げないと」
「そうでした」
茅野は俺から手を離すと勢い良く右手を挙げる。
解放された左肩をさすり、視線だけを動かして姉さんを見る。茅野は引き剥がしたし少しは落ち着いてればいいんだけど……ガン見していた。
はあ、これはまた家に帰ったら呼び出されそうだな。
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