第44話 地獄へのチケット
大山駅からの帰り道。
すっかり日が落ちた暗い空を見上げて、俺は吐息を漏らした。
部活での罰ゲームが付いた勝負。作戦通り俺は吉野を集中的に狙った。吉野にした理由は特にない。
そのおかげもあって序盤は俺の優勢でゲームが進んでいったが、麻倉と吉野に一人狙いしていることがバレてやり返された結果、俺がビリになった。これが因果応報か。
唯一の救いといえば一位が茅野だったことだな。その場で俺への罰が決まらず茅野からの命令は保留となっているが無理難題が来ないことを祈るしかないな。
「はぁ……普通にやればよかったな」
そんなことを考えながら帰宅しリビングのドアを開けると、待ってましたとばかりに仁王立ちの女性が立ち塞がった。
「おかえり、
つっけんどんな口調で俺を出迎えたのは二つ年上の姉、
重度のブラコンなのが悩みの種だが、それ以外は頼りがいのあるいい姉だ。エプロン姿で綺麗な黒髪を一つに結んでいる姉さんは、切れ長の目を細めている。
「ただいま姉さん。もしかしてご飯できてる?」
「とっくに出来てるわよ。早く手を洗って来なさい」
いつもなら作り始めてる時間なのに今日は早いな。
その場にバッグを置いた俺は、台所で手洗いを済ませ席についた。
「今日はカルボナーラか。最高じゃん、いただきます!」
フォークを手に取り、大好物の一つであるカルボナーラを絡めとろうとした俺に待ったがかかる。
「ねぇ、体育祭の組み分け赤白どっちだった?」
「えっ、赤だったけど……」
俺の言葉を聞いた姉さんは途端に笑顔になる。それだけで姉さんも赤組だったんだと理解する。
ご機嫌な様子で隣の席へ腰を掛けた姉さんが『いただきます』と手を合わせたのを見て、俺も食事を始めた。
「明日種目決めがあるけど何を選ぶか決まったの?」
「まあ、無難に綱引きと玉入れにしようかなって思ってるけど」
「……決まってないなら、お姉ちゃんと二人三脚に出なさい」
「いや決まってるって」
ツッコミつつカルボナーラを口へ運ぶ。
ただでさえ姉さんと同じ組なのに、一緒の競技に出るとか地獄でしかない。ここは速やかに話題を変えよう。
「ところで、今日のカルボナーラは心なしかチーズが多く使われてる気がするんだけど気のせい?」
「特別な日だからたっぷり入れたのよ。それ食べたんだから、ちゃんと明日は二人三脚で挙手しなさいよ」
話を逸らせたと思ってたのに刃を付けて戻ってきたぞ。俺は内心でため息をつく。
でも、まあ特段問題はないか。いざ当日になったら手を上げなければいいだけだし、姉さんには適当に忘れてたとか言っとけば大丈夫だろう。
「わかったよ」
「……言っとくけど、仮にあんたが挙手しなくても後で強制的にねじ込んどくから」
「わかったよ……」
かくして姉さんとの二人三脚とかいう地獄行きが決まった。
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