第43話 体育祭の種目

 その日の放課後。

 いつも通り部室の扉を開けると、そこには先に到着していた三人娘の姿があった。

 今日は火曜日で部長たちが来ない日だから、これで全員揃っていることになる。

 まだ、麻倉がここにいることに違和感はあるけど二日もすれば、それも感じなくなるだろうな。


 「あ、丸口くん。遅かったね」


 ふわっとした銀髪の少女、麻倉いのりが笑顔で声を掛けてきた。


 「ああうん。ちょっと明日のこと考えててさ」


 今日のHRで発表された体育祭の組み分け。

 その顔合わせと種目決めが明日行われるのだ。ちなみに運悪く俺たち全員が赤組に振り分けられた。


 「楽しみですね! みんなは何の種目に出るかもう決めましたか?」


 HRの時に配られた種目一覧表を長机に出しながら茅野が問い掛ける。


 「ボクは玉入れと綱引きに出る。楽だからな」


 長机に伏せたまま水色髪の小柄な少女、吉野未仲よしのみなが答える。


 「予想通り過ぎる答えですね。いのりちゃんはどうですか?」

 「私はどうしよっかな」


 顎に人差し指を当てプリントを眺める麻倉。その向かいに腰を下ろしながら改めて俺も種目の確認をする。

 体育祭の競技は全部で十種目。


 百メートル走。

 ハードル走。

 男女混合二人三脚。

 障害物競走。

 玉入れ。

 男女別綱引き。

 借り物競争。

 三学年合同1200メートルリレー。

 騎馬戦。

 しっぽ取り。


 この中の百メートル走だけは全員参加で他に後二種目を選ばなければならない。

 なので楽を取るなら吉野と同じ玉入れと綱引き一択なんだよな。動かなくて済むし、手を抜いててもバレないから。


 「やっぱり借り物競争と玉入れかな。つくちゃんは?」

 「私はですね、しっぽ取りと借り物競争に出ようと思ってます!」


 元気よく宣言する茅野がこちらを見る。


 「丸口さんは何に出るんですか?」

 「吉野と同じかな。あんま運動とか得意じゃないし」


 俺の言葉を聞いた茅野はハッとした表情で口に手を当てる。


 「みんな玉入れに出るんですか⁉ ……どうしよう、みんなが出るなら私も出たいけど……」

 「別に出場種目に制限かけられてるわけじゃないし、出ればいいじゃん」

 「そうなんですか?」


 きょとんと首を傾げる茅野に麻倉はプリントの下部に書かれている文章を指差した。


 「ほらここ、最低二種目って書かれてるし大丈夫じゃないかな」

 「ほんとだ……なら問題ないですね」


 一瞬にして悩ましげな表情から笑顔に変わる茅野。


 「楽しみですね体育祭!」

 「その前に期末テストだけどな」


 何気なく放った俺の一言に茅野の顔が凍りつく。


 「ど、どうしてそういうこと言うんですかー! わくわくしてたのに丸口さんのせいで台無しです!」


 事実を言っただけだろ。

 俺の肩を叩きぷんすか怒る茅野を面倒に思っていると、麻倉がとんと長机に何かが置かれた。


 「じゃあさ気分転換にみんなでこのゲームやろうよ」


 そう言って麻倉が取り出してきたのはブロックスと呼ばれる陣取りゲームだ。


 「ブロックスか、ボクはやるぞ」

 「私もやりたいです!」


 ゲームと聞きやる気をみなぎらせる吉野に続いて、茅野も手を挙げて参加を宣言する。


 「丸口くんもやるよね」


 箱から中身を取り出しながら、麻倉は事務的に聞いてくる。


 「いや、俺は遠慮しとく。三人で楽しんでよ」

 「彼方は昨日のゲームで負けたからな。また負けるのが怖いんだろ」


 にたにたと挑発するように煽ってくる吉野。


 「あー、確かに丸口くん大分大差ついて負けたもんね」

 「わかった、あえてその安い挑発に乗ってやる」


 全然イラついてはないが、言われっぱなしなのは丸口家の名折れだ。

 俺は取り出しかけていたラノベをバッグに戻した。


 「どうせならさ罰ゲームつけようよ」

 「いいなそれ。勝ったが最下位の奴に何でも命令できるってのはどうだ?」

 「私は賛成! さて丸口くんに何をしてもらおっかな~」

 「丸口さんが何でもしてくれるですか……いいですねやりましょう」

 「いやいや、勝った人が最下位にだからね。そこを間違いないように」


 やいやいと談笑を交え自駒を取り分けながら俺は作戦を固める。とりあえず吉野と麻倉のどっちかは狙い撃ちにしないとな。

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