第41話 これからの日常

 二日後、月曜日の放課後。

 HRを終えて部室に揃った俺たちに、麻倉が入り口の前で頭を下げる。


 「改めて、これから青援部の一員としてよろしくお願いします」


 パチパチパチと歓迎の拍手が上がる。俺が出入りし始めた時は四人だけだった青春援助部も新たに麻倉が入部したことにより六人に増えた。

 加えて俺以外の女子はクラス内でも男子人気トップに位置する三人だ。

 土曜日と比べ顔色も良くなっている。完全に立ち直ったわけでもないのに表面上それを感じさせないのは流石だ。


 「ようこそ青援部へ、麻倉ちゃん。じゃまあ、歓迎も込めてゲームしようぜみんなでよ」

 「いいな。やろう」


 部長の声にいち早く反応したのは吉野だ。ゲームと聞いて目をキラキラとさせている。

 当然の如く誰からも異論は出ず、机の上を片付けみんなが席に着くのを待ってから、部長は棚から一つの紙袋を取り出して長机に置いた。


 「今日やんのはこれだ!」


 ででん、と大袈裟に長机に広げられたのは様々なマス目とイラストが描かれた手作り感満載の大きな紙だ。


 「部長、何ですかこれ?」

 「ふっ、これはな先輩たちが作ったオリジナルボードゲーム。その名も『リア充を目指せ! 高校生活ゲーム』だ!」


 部長がドヤ顔で言って、白石先輩が頷く。


 「見て何となく気付いただろうけど、人生ゲームと同じすごろくね」

 「すごろく簡単で大好きです‼」


 簡単なゲーム大好きな茅野が笑顔を見せる。難しいゲームだとルール覚えられないし勝てないもんな。


 「人生ゲームと同じってことは、最後にお金を沢山持ってた人の勝ちってことですか?」


 麻倉が尋ね、部長はよくぞ聞いてくれたと語りだす。


 「高校生活ゲームはお金じゃなく、この青春ポイントを使う」


 部長は小さな巾着に入ったコマを取り出して見せる。


 「十、百、五百に千。一番高くて千か……マイナスマスもあるっぽいけど……部長、これ持ちポイントがマイナスになったらどうなるんですか?」

 「ああ、それな。マイナスになったら引きこもるんだ」


 部長の説明に白石先輩が補足を入れる。


 「マイナスのポイントに応じて手番がパスされるのよ。十ポイントなら一ターン、二十なら二ターンって感じで」

 「これはリア充を決めるゲームだかんな。マイナスは絶望だ、つまり引きこもるってわけだ」


 なんだそのやけにリアリティの高い設定は。やめてほしい。


 「ま、他にもルールはあっけど、あとはやって覚えようぜ」


 そう言って部長はポイントの入っていた小さな巾着からプレイヤーコマなどを取り出してスタートマスに並べていく。

 最後に順番を決めるためのじゃんけんをして、準備完了。

 ちなみに勝った部長から時計回りに、白石先輩、茅野、麻倉、俺、吉野の順だ。


 「うし、じゃあやるか。最初は全員、百青春ポイントからスタートだ。ポイントはマスに応じてオレが渡してくぜ。じゃ始めんぞ」


 部長はダイスを手に取り振った。出た目は5。


 「おっしゃ! 幸先いいぜ」


 部長は自分の駒を五マス進め、マスに書かれた指示を読み上げる。


 「なになに……隣の席の子と意気投合し友達になる、プラス二十青春ポイント。いいね」


 部長が二十ポイント分を自分の手元へ移動させ、手番が白石先輩へ移る。


 「それじゃ次は私の番ね。えいっ……三ね。えーと、学校からの帰り道で不良に絡まれる、マイナス十青春ポイント。はぁ⁉ 不良なんかに負けんじゃないわよ」

 「天下のアマゾネスもゲームの中じゃひ弱ってか。ポイント没収でーす、引きこもり待ったなしだなこりゃ」


 なははと笑いながら白石先輩からポイントを引く部長に鉄拳が振る。ぴくぴくと痙攣する部長を眺め苦笑いを浮かべた茅野がダイスを振る。


 「……やったー! 六が出ましたよ! ふむふむ、遊んでばかりでテストで赤点を取る、マイナス二十青春ポイント……そんなぁ」

 「現実の月夜と一緒じゃないか」


 吉野の淡々とした言葉にガックリと気を落とす茅野。あんまそういう事言うなよ。


 「じゃあ次は私だね。ほいっ……二だね、うーんとクラスメイトに恋愛相談をして友達になる。プラス十青春ポイント……恋愛」


 ぼそりと呟く麻倉の瞳から色が消える。なんかピンポイントに嫌なマスに止まってるな。

 そして回ってくる俺のターン。狙うは部長と同じマス、あそこが現状一番高いプラスポイントマスだ。


 「さ、頼むぞ」


 握りしめたダイスに気合いを込めて──振る。

 

 「「「「一」か」ね」だね」ですね」


 俺以外のみんなの口がそろう。一番出したくなかった目だ。


 「まあいいや。えっと、クラス内での自己紹介で大恥をかく、マイナス五十青春ポイント……」


 おい、いきなりポイントが半分になったぞ。


 「負け確だな、お疲れ彼方」

 「ありがと丸口くん。なんだか救われたよ、自分より下がいるって安心するね」

 「まだまだこれからです。マイナス仲間どうし一緒に頑張りましょう!」


 左右から煽られる俺に励ましをくれる茅野。

 手番は吉野に移り、俺より酷いことはないと確信してかご機嫌な様子でダイスを振る。


 「ん……四だな。なんだ? 先輩に強引に勧誘され部活に入部する。どういうことだ佑助?」

 「高校生活を体験するゲームだからな、当然部活もある。未仲の止まったマスみたいに入部マスがちょこちょこ存在すんだ。部活に入っとくと特定のマスでいいことあっから入ってて損はないぜ。てわけで、こん中から好きな部活を選んでくれ」

 「ふーん……じゃ青援部でいいか」


 部長の説明に頷いた吉野は迷いなく青春援助部のカードを手に取った。


 「青春援助部があるんですね」

 「先輩方の理想を詰め込んだゲームだからね。この学校にない部活もあるのよ」


 そう言って白石先輩はメイド部と書かれたカードを指差す。本当だ、ちゃんとイラストも描かれてるし妙に手が込んでるな。てかメイド部って何をする部活なんだ。


 「未仲のターンも終わったし、オレだな──」


 と、それからもゲームは進んでいき、笑いながら楽しそうにゲームをプレイするみんなを目にして俺は、一か月前の自分を思い出していた。


 入学当初は一人で静かにヲタクライフを楽しみ、陽キャたちとは関わらずに高校生活を送ろうと決めて行動してきた。

 なのに、吉野にいつの間にか入部していた青春援助部へ連れてかれて、麻倉と茅野が依頼をしに来て関わるようになった。

 水族館に行って、勉強会をして、両親の経営する店でご飯を食べて、そうやって関わるようになった人達に交流会では助けられた。


 めんどくさいと嫌っていたのに、今はこんな生活も悪くはないと思い始めている自分がいる。

 モブから始まった俺の高校生活に人と関わり交流してきたことで鮮やかな色がついた。


 「はい、次は丸口くんのターンだよ」

 「ようやく引きこもりを止めたか、ビリは確定だな」

 「大丈夫ですよ丸口さん。まだまだ三年生が始まったばかりです!」


 口々にやかましい三人娘を眺め、俺は内心で笑みを浮かべながらサイコロを降った。

 これからも、俺の想像していた高校生活とは少し違った毎日が続いて行くんだろうなと、そう思った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

 先ずはここまで読んでいただきありがとうございます。

 突然ではありますが、モブから始める高校生活はここで一旦終了します。再開は未定です。

 というのも応募用作品として作ったため次章以降の展開を決めてないんです。泣

 最後になりますが、改めてこの作品を読んでいただきありがとうございます。

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