第40話 ファミレスで

 「いらっしゃいませーっ! こちらのお席へどうぞ‼」


 元気いっぱいな店員に案内され、俺たちは思い思いに席に着く。交通公園から場所を移し、俺たち四人が来たのはファミレス。

 茅野はメニューを広げると、笑顔で麻倉に話しかける。


 「いのりちゃん、何食べますか?」

 「……ごめん、食欲ないかな」


 先程、幸せ絶頂の中で起きた悲劇から二十分。流した涙のおかげか攻撃的な一面は姿を消したものの心に負ったキズは深く大きいせいか、今の麻倉は酷く暗いものだった。


 「ま、丸口さんと未仲はどうします?」

 「ボクはパフェだな」


 これにするとデザートメニューに載っている苺パフェを指差す吉野。

 ……吉野は気を遣うでもなく平常運転か。むしろその方がいいか、下手に刺激すれば麻倉がより傷つく可能性もあるしな。


 「丸口さんもお腹空いてないんですか?」

 「いや、俺は明太カルボナーラにするよ」

 「わかりました! では、注文しちゃいますね」


 茅野がベルを鳴らしてから、ほどなくして現れた店員に俺たちはそれぞれ注文を済ます。


 「それで確認なんだけどさ、麻倉さんまだ一条に危害を加えようとか思ってる?」

 「丸口さん⁉ 何を聞いてるんですか?」


 茅野が驚いたように手をつき立ち上がる。


 「何ってただの確認だよ。この後帰ってから一条に何かあったら困るだろ。それでどうなの?」


 我ながらデリカシーのデの字もない発言だな。でも、この状態の麻倉なにするか分かんないしな。


 「……ない、とは言い切れないかな。今は大丈夫だけど昂輝の顔を見たらどうなるか私も分からない」

 「そう、か。えっ、一条と家って近かったりする?」

 「隣だけど」

 「ああー、なるほどね……」

 

 言って、俺は内心頭を抱える。


 「いのりちゃん私たちが出来ることなら何でもしますから、暴力は……」

 「茅野ちゃんありがと。でも大丈夫だよ、もう二度と会わないようにするし」


 もう二度と、か……具体的にはどうするつもりなんだろ。とか考えていたら頼んでいた料理が運ばれてくる。


 「いのり、口開けろ」 

 「なんでかな?」

 「いいから開けろ」


 いつになく強気な吉野の物言いに困惑しながらも口を開く麻倉。

 すると吉野は自分で頼んだ苺パフェをスプーンですくうと、麻倉の口の中に突っ込んだ。

 

 「⁉ 甘くて美味しい」

 「ボクもいのりと似た経験したことあるから気持ちは分かる。辛くて苦しくて張り裂けそうなほど胸が痛いんだ。でもいのりは一人じゃないぞ、月夜も彼方もボクもいる」


 瞬間……一筋の雫が麻倉の頬を伝った。


 「あれ、おかしいな……こんなはずじゃ」


 麻倉は必死に両手で拭うが、止めようとすればするほどに涙はとめどなく溢れてくる。


 「これハンカチです。使って下さい」

 「飲み……彼方、なんか飲み物取ってこい」

 「はいはい」

 「ありがど……二人ともありがどう、ごめんね」


 結局十分間くらい泣いていた麻倉は、その後落ち着いてから話し始めた。

 前半は一条への十年分の想いと自分の心境。後半は愚痴だ。

 気づけば二時間が経っていた。ただただ聞いているだけだったが、それでも時折笑顔の麻倉が戻ってきたし、茅野や吉野も笑っていた。

 俺がいなくてもよかった気がするが、まあ良しとしよう。


 「麻倉さんも大丈夫そうだし、後は二人に任せて帰っていいか?」

 「ダメですよ。これからいのりちゃん歓迎会パーティーするんですから」


 聞きなれない単語に首をかしげる俺。


 「パーティーってなんだ?」

 「聞いてなかったんですか? いのりちゃんも青援部に入るんですよ」

 「は⁉ マジで?」


 いつの間にそんな話になってたんだ。


 「いのりが入れば佑助たちがいない日でもボドゲが出来るからな、メリットしかない」

 「ですです。丸口さんも一緒にお祝いしましょう!」


 別に麻倉が青援部に入るのはいいけど、お祝いとかめんどくさいな。何したらいいか分かんないし。


 「……これからよろしくね、丸口くん」


 まだ少しぎこちない笑顔を見せる麻倉を見て、俺はもう少しだけ付き合うことにした。

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