第38話 思い出巡り2

 小学校から徒歩五分。到着したのは板橋大山第二中学校。去年まで通っていた俺と一条と麻倉の母校だ。

 といっても、あまりいい思い出はないし何も感じないな。

 澄んだ湖の如く静寂な俺の心とは裏腹に、明るい声を上げる麻倉。


 「中学も楽しかったよね。たった三年間しかなかったけど小学校の六年間と同じくらい色んな思い出が詰まってる」

 「卒業式の時、いのり号泣してたよな」


 校門から見える校舎を眺め感傷に浸る麻倉に、にやりと軽口を叩く一条。


 「……っ」

 「いてっ、何も叩くことねーだろ」


 麻倉にポカポカと叩かれた肩をさする一条。はたから見れば、ただのいちゃつくカップルだ。


 「丸口さん丸口さん。もしかして私たちお邪魔ですかね?」

 「そうかもね」


 まあ、俺たちそっちのけでイチャついてるし、邪魔とすら思ってなさそうだけど。

 吉野がくいくいと俺の袖を引いてくる。


 「なあ、このまま散歩とやらを続けるだけなら帰ってもいいか?」

 「別にいいけど……」

 「ん……じゃあな」


 淡々と去ろうとする吉野の腕を茅野が掴んだ。


 「待って下さい。せっかく来たんですし楽しみましょうよ」

 「ただ歩いてるだけの何が楽しいんだ。ボクはもう疲れた」


 一度帰ると決めた吉野を引き留めるのは難しい。

 それを茅野も理解しているのか、うーんと考え込む茅野。数秒、何か思いついたのか静かに口を開いた。


 「……丸口さん、未仲をおんぶしてくれませんか?」

 「は? 嫌だけど。茅野さんがすればいいじゃん」

 「私だと三歩持ちません。散歩だけに……あはは」


 面白くも何ともないギャグを披露した茅野は『お願いします』とばかりにこちらへ期待した視線を向けてくる。

 ほんと勘弁してくれ。素直に帰らせてやればいいのに……どうしたもんか。おんぶ なんて絶対に嫌だし、かといって吉野を引き留められるような魔法の言葉もないし。

 はあ、仕方ない。


 「交換条件だ。明後日の月曜日に弁当作ってくる。だから今日は最後までいてくれ」


 一か八かではあったが、俺の言葉を聞いた吉野は珍しく目を輝かせている。


 「本当か⁉」

 「約束する」

 「絶対だからな」

 「分かったよ」


 再三の確認に納得した吉野は、満足した様子で近くのガードパイプに腰掛けた。

 余計な手間は増えたがこれで茅野も満足だろ。


 「ズルいです。私にも作って下さい」


 希望通りの展開になったのに、当の茅野は頬を膨らませ不満足だ。

 茅野のために身を削ったというのに感謝の一つもなし。骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだな。さて、どう断ろうかな──


 「ねえ、丸口くんは中学で一番何が楽しかった?」


 不意に二人の世界にいたはずの麻倉から声が掛かった。


 「えっ、特にないけど麻倉さんは何かあるの?」

 「私はいっぱいあるよ。職場体験、スキー教室に修学旅行。合唱コンも運動会だって全部楽しかった。その中でも一番は卒業遠足で行ったドリームランドだね」

 「楽しかったな。あんま行ったことなかったからどれも新鮮で最高だったな」


 あー思い出したくない。一人で気ままに楽しもうとしてたのに、何故か入り口で待ち構えてた姉さんと二人で回ったんだよな。


 「昂輝は中学で一番印象に残ってることある?」

 「印象に残ったか……なら、オレは去年だな。あんだけいのりと一緒に過ごしたのは初めてだったからな」


 爽やかな笑顔のまま一条は続ける。


 「オレもいのりも勉強はそこそこだったから、互いに教えあって勉強漬けの毎日だったよな。久々にいのりの家に泊まったりいのりが泊まりに来たり、子供の頃に戻ったみたいで楽しかったよ」


 「そっか……私と過ごしたのが一番……」


  心配した様子の一条が詰め寄ると、不意に麻倉の額へ手をかざした。


  「どうしたいのり? 顔赤いけど体調でも悪いのか?」

  「な、なんでもない⁉ ぜんぜん平気だよ。じゃ、じゃあ次いこっか」


  そう言って目をぐるぐるさせた麻倉は更に顔を赤くしながら、慌てた様子で足早に進みだした。

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