第37話 思い出巡り1

 待ち合わせ場所に一条が現れ軽く挨拶を交わした後、俺たちは先頭に麻倉と一条を置いた陣形で麻倉プレゼンツの散歩へと繰り出していた。


 「で、散歩とは聞いたけど何処に向かってんだ?」

 「当ててみてよ。この道どこか見おぼえない?」


 一条の質問に麻倉は試すように問い返す。


 「つってもなー、見慣れすぎてるせいで思いつかねえな。なんだ……?」


 見当がつかないのか一条は、分かりやすく腕を組みうんうん頭を悩ませている。

 悩む一条にさり気ないボディタッチを挟む麻倉。そんな二人の後ろ姿を眺めていると右隣を歩く茅野が不意に声を掛けてくる。


 「丸口さんは何か分かりますか?」

 「いや、見当もつかないな」


 一条と同じくこの街で育った俺もまた、この道は幾度となく通って来ている。その中で麻倉と関連付けられるような思い出は何一つない。

 故に、これは一条にだけ向けた質問なんだろうな。


 「ちなみに私はですね、丸口さんのご実家に行った時を思い出しました。豚カツが絶品でした」

 「確かにな。あれだけの腕を持つ親がいれば彼方が料理出来るのも納得だ」


 訊いてもいないのに語りだした茅野に賛同するように、俺の左隣を歩いている吉野が頷く。若干気恥ずかしいが両親の作る料理が認められてるのはなんだか誇らしい。


 「待って下さい、どうして未仲が丸口さんの料理の腕前を知ってるんですか?」

 「食べたからな、彼方の手作りおにぎりを」

                                                  

 ああ、交流会の準備で家庭科部を手伝った時に、お詫びとして吉野に作ったんだっけ。


 「う、嘘ですよね? 私だって食べたことないのに」

 「ふっ残念だったな」


 涙目で不安げな茅野に対して勝ち誇ったように吉野は口角を上げる。


 「ズルいズルいズルーい、私も食べたいです! 作ってください丸口さん‼」


 涙目から一転、駄々をこねる子供のように茅野は俺の右肩を掴み揺すってくる。


 「作るならボクの分もよろしく」

 「未仲は一回食べたんだから遠慮してください」

 「却下だ。ただ飯を逃すなんて馬鹿のすることだ」

 「それだと丸口さんが作ってくれない可能性があるんです。取り消してください」

 「断る」


 俺を挟み決着のつかない言い合いをする二人。そもそも作る気なんてないんだけど。

 そんな折、十字路を左に曲がったタイミングだった。


 「そういやこの先って……俺らが通ってた小学校だよな。見覚えってコレのことか?」

 「せいかーい。早いよね、卒業してからもう三年も経つんだよ」

 「ああ、そうだな」


  たどり着いたのは、大山第六小学校。一条と麻倉の出身小学校だった。

  大山駅に向かう途中に校舎の裏側を目にすることはあったが、こうして校門から正面を一望するのは初めてだった。

 特に思い入れもないため呆然としている俺の耳に、麻倉の穏やかな声が届く。


 「覚えてる? 低学年の時、休み時間の度に私を外に連れ出してくれたこと」

 「覚えてるよ。あの頃のいのりは引っ込み思案で中々友達が出来なかったからな」

 「そうそう……でも、昂輝のおかげで友達作れるようになったよ」


 へぇ、麻倉って昔は人見知りだったのか……想像つかん。

 だが、今日の狙いは何となく分かった気がする。


 「知ってる、今じゃオレより多いくらいだもんな」


 自虐するように頬を搔きながら『ははは』と笑顔を見せる一条。

 完全に置いてけぼりの俺たち三人をよそに、麻倉は慌てた様子で声を上げる。


 「そんなことないよ! 私、女友達しかいないんだから」

 「言われてみれば、いのりが男と話してるとこ見たことねえな」

 「当然だよ。浮気なんて絶対にしないし許さないからね」

 「浮気って……相変わらずだな」


 頭の中でいつかの水族館で交わした麻倉との会話がよぎる。

 あの時──一か月前から麻倉の一条に対する気持ちや想いは変っていない。

 いや、むしろ大きくなっている。今が最高潮なのだろう。


 「さ、次に行こう~!」


 一条と思い出の共有を行い、上機嫌になった麻倉に続いて俺たちはこの場を去った。

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