第四章
第36話 終わりの始まり
交流会の翌日。土曜日の朝。
大山駅南口で俺は眠たい目をこすりながら、過ぎ行く人波をぼんやり眺めていた。
友達や家族。あるいは恋人や学校、会社の先輩に後輩。様々な人たちが視界を横切っては現れ消えていく。
なんてことない休日の朝だ……皆にとっては。本来であれば俺も普通に家で過ごして惰眠を貪っているはずだった。
「おはよっ!」
明るく甘い声音で俺の目の前に現れたのは麻倉いのり。いつかの水族館の時と同じ黒色で統一されたフリフリの洋服姿だ。
麻倉はにこやかな笑顔のまま、一度くるりと回った。
「どう? 今日は勝負の日だから気合い入れてきたんだけど」
「え、あ……うん。似合ってるんじゃないかな」
「ありがと。それで今日さ──」
と、何かを言いかけた麻倉の声を遮り二つの人影が俺の前に現れた。
「おはよーございます‼」
「暇だから来てやったぞ」
一人はワンピースに身を包んだ茅野月夜。もう一人は身の丈に合わない大きなパーカーを着ている吉野未仲。
「なんで二人がいるんだ?」
「ちょうど伝えようと思ってたんだけど、私が許可だしたんだ」
まあ交流会の準備の時に茅野が頼みに行ったのは知ってるけど……吉野は今日の事どこで知っていつ麻倉に話したんだろ? いやいや、そんなことよりも。
「えっと……麻倉さんにとって大事な日じゃなかったのか?」
「だからこそだよ。覚悟を決めたはずなんだけどやっぱり怖いんだ……だから、私が逃げないために見届けて欲しいんだよ」
見れば麻倉の手は少し震えていた。自ら退路を断つか……そこまでしてでも勝ち取りたいものなのか。
「それにさみんなでいた方が楽しいじゃん」
そう言って普段と同じ笑顔を見せる麻倉。手の震えは止まっていた。
「麻倉さんがいいならいいけど」
「あの、やっぱりお邪魔でしたか?」
コソコソと二人で話す俺たちを不審に思ったのか不安そうに顔をしかめる茅野。
「いやいや、違うよ。二人が来るの知らなかったから驚いてただけだ」
苦し紛れの言い分に疑いもせず茅野は明るい表情へと変わる。ほんと表情豊かだな。
「なんだぁ~、びっくりしてたんですね。それで、今日は何をして遊ぶんですか?」
「ボクはゲームがしたい。ボドゲカフェとかないのか」
あるわけないだろ……いや、あるのかもしれないけど、俺は知らない。
しかし、俺も聞いてないけど何するんだろ? 大山駅に集まったてことはどこかに行くのか……それだったら二人を駅のホームに待たせるよな。
自然と言い出しっぺへ視線が集まると、麻倉はふふんと得意げに人差し指を立てて口を開いた。
「今日はお散歩だよ」
「「「散歩?」」」
予想外の単語に首をかしげた俺たちの元へタイミングよく一条が到着した。
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