第30話 交流会その3

 二人と別れた俺は、残りの一人は部長でいいじゃんと気づき体育館内をぶらぶらと歩いていた。


 騒がしい部長のことだから、存外早く見つかると思っていたのに中々姿が目に入らない。

 てゆうか、このまま部長を見つけたとしても部長が他の先輩方と一緒にいた場合、とても声を掛けずらいぞ。

 戻るか? ちらりと出入り口の方を見る。待機列は先ほどよりも長くなっていた。


 「どうするべきか。戻れば時間はかかるけど確実に一枠は埋まる。けど、紹介されるのは知らない人。部長を見つければ見知っている分楽だけど、周りに上級生がいた場合勇気が必要だ」


 探すか戻るか、葛藤しながらうろうろと行ったり来たりの俺の視界に、丸テーブルの上に並べられたクッキーをパクついている一人の女子生徒が目に入る。


 「こんにちは、白石先輩。部長は一緒じゃないんですか?」

 「んぐっ⁉ ま、丸口君」


 一瞬驚きつつも白石先輩は、コップのお茶を一口飲むとすぐに落ち着きを取り戻す。


 「驚かせてすいません」

 「ぜんぜん気にしないで大丈夫だから」

 「ありがとうございます。あの、それで白石先輩だけなんですか?」

 「そうなの。さっきまで佑助と一緒にいたんだけどねトイレに行くって出ていったのよ」

 「そうなんですね……」

 「どうしたの? 佑助に何か用事でもあったの?」

 「あっ、いやえっと……課題のプロフィール埋めを部長にお願いしようかなって」

 「ああー。それなら私がやってあげるわよ」

 「本当ですか⁉」


 思いがけない提案に声を上げる俺。


 「かわいい後輩のためだもの。任せなさい」

 「俺、白石先輩のこと誤解してました」

 「いいのいいの……誤解?」


 まさか白石先輩の方から誘ってくれるとはな。一条や松岡の時といい、順風満帆すぎる。


 「ねえ、誤解ってどういうことよ」

 「それじゃあ白石先輩、早速始めましょう。先輩は何組なんですか?」

 「……三組ね。佑助ゆうすけ佳乃かのとも一緒よ」

 「へぇー姉さんも同じクラスだったんですね。次が先輩の趣味は?」

 「うーん、これといった趣味はないのよね。しいて言うなら家事かしら」


 以上で終わりっと。ホントにこの課題は相手を探すのが大変なだけで質問自体は楽で助かる。

 にしても白石先輩の趣味が家事か……想像つかないな。


 「今度は私の番だけど、丸口君の趣味ってラノベとかアニメでいいのよね?」

 「あっはい。そうです」


 よく分かったな。俺ってそんなにヲタクに見えるのかな。


 「クラスは未仲と同じだし……よし、これで終わりね」

 「あの……改めてありがとうございました」


 先輩のおかげで課題が無事に終わったことに俺は、今一度しっかりと感謝を込めて頭を下げた。


 「頭を上げてよ。お礼を言われるようなことは何もしてないんだから。それより私で何人目?」

 「先輩でちょうど五人目です」

 「じゃあこれで課題は終わりね、お疲れ様。交流会の課題はどうだった?」

 「正直大変でした。課題があるなんて思ってなかったので焦りましたよ」

 「そうよね、私も一年生の時は苦労したわ。ねえ、丸口君。交流会でどうして課題が出されるか知ってる?」


 そんなの事前に佐助先輩が言ってたように六時間目の振り替えと交流会の体裁を保つためじゃないのか?


 「もちろんその側面もあるんだけど、本当の目的は組み分けのためなのよ」

 「……それって、体育祭の赤組、白組のですか?」


 白石先輩はこくりと頷く。


 「不規則に組を別けしても周りが知らない人ばかりじゃ一致団結なんてできないし盛り上がりに欠けるでしょ? だからこの後プリントを回収して、誰がどの生徒と交流したのかを確認してなるべく交流会で関わった人たちと被らせて組を作るの」


 そもそも他校と同じくクラス単位でやればいいのではないか。などと無粋なことは口にしない。


 「……てことは、プリントに書いた生徒と同じチームになるってことですか?」

 「全員じゃないけどね。その中の二人か三人とは一緒のはずよ」


 マジか、チーム次第じゃ体育祭休もうかな。

 来たる体育祭の姿を想像して、内心ため息をついている俺をよそに、ポケットから取り出したスマホを眺めていた白石先輩が片手を立てる。


 「ごめんね。佑助から呼び出しかかっちゃった。……そうだ、丸口君も一緒に来る?」

 「ああいえ、少し疲れたんで休憩します」

 「そう。なら、また後でね」


 それだけ言うと、白石先輩は出入り口の方に走っていった。

 何はともあれこれで五人目、ノルマクリア達成だ。

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