第29話 交流会その2

 「うわぁ、マジか……」


 一条たちと別れ、当初の目的である体育館出入り口へやってきた俺は、眼前に映る長蛇の列に唖然としていた。

 見れば、俺と同類と思わしき地味ーズの生徒もちらほらと見かけるが、それ以上に友達と談笑しながら並んでいる人たちが目立つ。まるで、アトラクションの待機列のようだ。

 どうして陰キャのオアシスが汚染されているのか皆目見当もつかないが、何はともあれ。


 「……並ぶしかないよな」

 「丸口くんみーっけ」


 瞬間、不意に囁かれた声に驚き、即座に身を引き振り向くと、そこには亜麻色の髪を揺らした少女が手を振っていた。


 「やっほ! ぼっちで可哀想な丸口くんのためにお姉さんが助けにきてあげたぞ」

 「茅野姉……」


 月曜日ぶりに顔を合わせる茅野姉は変わらず元気そうだ。


 「茅野姉? なんで変な呼び方なの……あっ、お姉さんわかっちゃった。名字で呼ぶのは月夜と被ってややこしい。かと言って名前で呼ぶのは気恥ずかしい、だから茅野姉なんだね?」


 無言を肯定と捉えたのか、ニヤニヤと口角が上がり始める茅野姉。

 なんで分かるんだよ。


 「もぉ~可愛いな~。ピュアピュアなんだね丸口くんは」


 我が意を得たりと言わんばかりに茅野姉は、無遠慮に俺の頭をぐりぐりと撫で回す。

 ウザイウザイウザイ。今日は厄日かなにかなのか。


 「その辺にしとけ。困ってるだろうが」


 ぺしんと茅野姉をはたいて現れたのは松岡だ。助かった。


 「あいたー、ごめんね。丸口くんって弟感が強くてついつい構ってあげたくなっちゃうんだよね~」

 「俺に弟はいないが言わんとしてることは分かる。きっと丸口が基本的に受け身な性格だからだろうな」


 なんだろう。下に見られている感がして、ちょっとムカつくな。


 「……それで二人して何しに来たんだ? ここに茅野さんはいないけど」

 「あー違う違う。今日は月夜じゃなくて丸口くんに用があるんだ」

 「丸口、俺たちとプロフィール交換をするぞ」


 言って、松岡は一枠しか埋っていないプリントを堂々と前に掲げる。

 一枠目が誰なのか見てみれば茅野月夜と書かれていた。


 「茅野さんとしかやってないのか?」

 「ん? あたしは違うよ。丸口くんでちょうど五人目。問題は信長の方なんだよね……」

 「単に知り合いがいないだけだ。そもそも今後も関わっていくかどうかも知れん相手に迂闊に個人情報を渡すのは些か不用心すぎる」

 「こんなんだから」


 早口でまくし立てるように言い放つ松岡を横目に、茅野姉は呆れたように肩をすくめる。

 意外だな。松岡はもっと陽の人だと思ってたのに、まさか俺と同類とはな。急に親近感が湧いてきたぞ。


 「そういうことなら、俺も歓迎するよ。ぜんぜん埋まってないし」

 「どうして笑顔を浮かべてやがる。気色悪いぞ」


 フフッ、いいんだ許そう。今の俺は気分がいいんだ。


 「それでまずはどっちからするんだ?」

 「俺から行かせてもらおう」

 「ああ、じゃあよろしく」


 それから俺は、二人とプロフィールを交換を終わらせて無事に四枠が埋まった。ノルマクリアまであと一人だ。

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