第17話 不機嫌な吉野
その日の放課後。
部室へと向かう途中、ポケットの中のスマホがブルブルと震える。
姉さんから連絡でも入ったのかと思い、スマホを取り出し画面を見る。
赤髪の天才『中間考査に集中するからしばらく部室に行けねぇ。未仲のことで何かあれば連絡くれ。頼んだぞ』
と、通知画面に見覚えのない名前と共にメッセージが表示されていた。
ん? 誰だろ。
「赤髪? 未仲……もしかして部長からか? でも、連絡先を交換した覚えなんてないよな」
メッセージの内容的に部長だとは思う。ひょっとして、姉さんから聞いたのかもしれない。とゆうか、それ以外に考え付かないし間違いないだろう。
一応、本物かどうか確かめておくか。
いつの間にか部室前に着いていた俺は、部長と思わしき人物へメッセージを送信してから、部室の扉を開けた。
「お疲れ様」
ガラガラガラ、パタンッ。
開けたはずの扉が、水色髪の小柄な少女によって閉められる。
俺はもう一度扉を開ける。
「何で閉めたんだ吉野」
「職務を放棄して女子といちゃついてる奴が部室に入れると思うな」
言って吉野は、再び扉を閉めようとする。俺は咄嗟に手を差し込み、閉められないよう扉を押さえる。
「待ってくれ、何の事を言ってるんだ? 女子といちゃつくって、そんなことしてた覚えはないぞ」
「朝と昼休み、ボクがどれだけ大変だったと思ってるんだ」
どれだけって……朝は寝坊して遅刻ギリギリだったし、昼休みは教室にいなかったしな。
「知らないけど、その様子じゃ大変だったみたいだな」
「みたいじゃない。大変だったんだ!」
珍しく声を大きくして怒ってるみたいだけど、全然怖くないな。
「分かったからさ、中で話そうよ」
ふんふん怒る吉野を落ち着かせながら、半ば強引に部屋に入る。
「お、お邪魔してます丸口さん」
椅子に腰かけた茅野が遠慮がちに、笑顔を見せる。吉野と一緒に来たのかな。
「あれ? 茅野さんって入部届け出したんだよね?」
「はい。今日の朝に出しました」
「なら、もっと堂々としてていいと思うよ」
「あはは、そうですよね。私も部員ですしもっと堂々とします!」
グッと両手でポーズを作る茅野。周りの女子の中では一番女の子らしい茅野に和む俺。
「おい、ボクを無視するな!」
ダンダン机を叩いている吉野は未だご立腹だ。そうだ、まだこっちが片付いてなかった。
「それで、何があったんだ?」
「朝陽と信長が月夜を奪いに来るんだ!」
あさひとのぶなが? 誰だそれは。
「えっと、私を迎えに来た姉と松岡さんを吉野さんが頑張って説得してくれたんです」
ざっくりとした吉野の説明に補足を入れる茅野。
「なんとなく状況は理解できた。吉野がここまで怒るのも珍しいし、思った以上に相手も粘り強かったわけか」
「ボクは何度も『無理だ』『帰れ』って言ったんだ。なのに、あいつらしつこいんだ」
おっと……嫌な予感が。
「確認なんだけどさ、その二単語以外に何て言ったんだ?」
「? 何も言ってないぞ。バカな男子は大抵これで帰っていくからな」
バカはお前だ。
「はぁ、理由も言わず無理と帰れの一点張りじゃ誰も納得しないって。よくそれで押し通せたな」
「月夜のおかげだな」
自分に振られると思ってなかったのか驚く茅野。
「そんな大したことしてないですよ。朝は約束をして、お昼は吉野さんとご飯を食べる約束をしてたと言って納得してもらったんです」
十分すぎるほどの活躍だ。
「茅野さんの機転がなきゃ、もっとこじれてただろうし謙遜しなくていいと思うよ」
「そうですかね。……でも、元はと言えば私が原因ですし、やっぱり大したことはしてないです」
健気すぎるだろ。吉野にも見習ってほしい。
「とりあえず話も終わったし、勉強でもしようか」
「はい、今日やったとこの復習をしたいです」
「ボクはパスだ。明日からも朝は担当してやるが、あとは全部彼方に任せる」
吉野は立ち上げると、そのまま奥の畳へと寝転がった。
根に持ってそうだな。
「分かった、昼と放課後は俺が受け持つけど、せめて勉強くらいは一緒に教えてほしい」
「勉強を教えるなんて無理だ」
「俺だってやったことなくて手探りなんだ。昨日、手伝うって言ってたろ」
食い下がる俺に、吉野は少し嫌そうに顔をしかめる。
「だいたいボクが手伝わなきゃいけないほど、バカじゃないだろう」
「だとしても、来週末には中間テストもあるんだし、備えとくに越したことはないだろ」
「じゃあ、一週間前になったら手伝ってやる」
これは、無理だな。あのメッセージが本当に部長なら報告しとくか。
……まったく、昨日のやる気に満ちた吉野はどこにいったのやら。
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