第二章

第13話 新たな日常

 月曜日の放課後、部室にて。

 俺は対面に座る麻倉と向かい合っていた。

 部屋には他の部員はおらず二人きりだ。


 「どうして麻倉さんがいるんだ? もしかして昨日の件で文句を?」


 麻倉からしたら、依頼して作戦まで立てたのに全く機能しなかったわけだし怒っていても不思議じゃない。


 「私、エレベーターの中で大丈夫、問題ないって言ったよね? なのに日を跨いでまで文句を言いに来るって思ってるのかな?」

 「違うの?」

 「一回丸口くんとはじっくり話す必要があるみたいだね。中学三年間同じクラスだったとは思えないな」


 三年間同じだからといって理解できるものでもない。関わりがないんだから。


 「なら、どうして?」

 「あの後、丸口くんどうしたのかなって気になったの」

 「あの後って…………吉野となら、普通にマック食べて帰ったぞ」

 「えっ、嘘だよね?」

 「本当だけど」


 信じられない、とでも言いそうな程に目を丸くしている麻倉。


 「信じられない」


 言いやがったよ。何が信じられないのか分からないな。別に吉野とは友達でもないんだし当然の結果だろ。


 「女子と二人だよ? 丸口くんの人生で二度と来ないような絶好のシチュエーション。距離を縮めようって下心はないの⁉」


 あるわけないだろ。吉野だぞ。


 「まったくもう、男子高校生とは思えないな。修行僧なの? 煩悩ないの?」


 うるさいなコイツ。俺にだって欲ぐらいあるわ。


 「はあ、用が済んだなら帰ってくれないかな」

 「そう言えば、吉野ちゃんは? まだ来ないの?」


 麻倉は俺の声など聞こえてないかの如く話題をすげ替える。聞けよ人の話を。


 「吉野ならいつも部長たちと一緒に来るんだ」

 「兄妹仲がいいんだね」

 「そうみたいだな。それじゃ、そろそろ帰ってくれないか?」

 「ねえ、丸口くんの後ろにある棚に色々ゲームが入ってるけど何で?」


 マジでコイツ、どうして居座り続けてるんだ。早く帰ってくれないかな。


 「あの、本当に用が済んだなら帰ってほ──」


 と、言いかけた俺の言葉に被せるようにコンコンとノック音が部屋に響いた。


 「誰か来たみたいだね。吉野ちゃんたちかな?」

 「いや、部長たちならノックなんてしないで入ってくるから依頼者かもしれない」

 「依頼者! 私、初めて見るかも」


 目に見えてテンションが上がる麻倉。あなたも依頼者だったけどね。

 麻倉との会話も一段落したのを感じ、俺はポケットからスマホ取り出した。

 ネットサーフィンに勤しみ、いつまでも動く気配のない俺を見て麻倉は首をかしげる。


 「ん? どうしたの丸口くん。依頼者だよ、入れてあげないの?」

 「部長たち来てないから居留守を使おうかなと、俺が対応しようにも勝手が分からないしさ」

 「ダメだよ丸口くん! 何か困ってるから来てるわけだし、無下にしたら罰が当たるよ!」


 ダンッと机に手をつき前のめりにこちらを見据える麻倉。

 静まり返った部屋に再度ノックの音が鳴る。


 「丸口くん!」

 「……分かったよ」


 俺はしぶしぶ立ち上がり、入口へと向かいドアを開けた。


 「こ、こんにちは」


 眼前には伏し目がちに挨拶を口にした見覚えのある少女。

 肩まで伸びた亜麻色の髪に三日月の髪飾りを着けた彼女は、クラスメイトの茅野月夜かやのつくよだ。

 「茅野さん?」

 「え……? 丸口さん」


 予想外すぎる来客に俺はその場から動けなかった。

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