第11話 マリンガーデン
それから約一時間が経過した。
姉さんへのプレゼントも目途が立ち、屋内エリアを堪能しつくした俺と吉野は出口から少し離れた通路の端にいた。
事前の作戦会議で屋内エリアより狭いマリンガーデンは皆で回ろうと決め、出口付近を待ち合わせ場所にしたのだが。
「麻倉さんたちの方が早いと思ったんだけど、どこかで入れ違ったかな」
「土産コーナーにいたし、もう少ししたら来るんじゃないか」
「よく気づいたな」
サニー水族館内で唯一のショップということあり、かなり人がいたはずなんだけど凄いな。
俺も姉さんにお土産を買っていこうかと悩んだ結果、断腸の思いだったが諦めることにした。
姉さんへの言い訳を考えつつ大きく伸びをしていると、
「あっもういた。もしかして結構待った?」
麻倉の声に振り向く。
ショップで何か購入したのか、その手にはペンギンやエイなどのシルエットが描かれた袋が握られていた。
「時間とか決めてなかったし気にしなくていいよ。それよりどうだった?」
「手ごたえありかな」
ふふんと親指を立て満足げな笑顔。楽しめたなら何よりだ。
対して一条の方は申し訳なさそうに眉をひそめている。
「いのりに言われるがまま二人きりにしたけど、大丈夫だったか丸口?」
「全然問題ないから一条も気にすんな」
てか、もう放っておいてほしい。
「ありがとな。ここからはオレも全力でサポートするからな」
全力でお断りします。
「よし、そうと決まれば早速行動だ。まずはどこ行く?」
「はい! 私カワウソ見たい」
特に反対意見も出なかったため話はまとまり、俺たちはカワウソを目指して歩き出す。
「ねえ丸口くん。実は私……勝ったの」
買ったのか。見れば分かるけど。
「なに買ったんだ?」
「これだよ」
そう言って袋から取り出したのはチンアナゴのストラップだった。
「昂輝がね、お揃いの着けてくれるって約束してくれたの。大勝利じゃないかな」
ん? 買ったじゃなくて勝ったの方だったのか。麻倉も気づいてないしいいか。
「良かったじゃん。俺、何もしてないけど依頼達成ってことでいいのか?」
「だねって言いたいんだけど……もう少し付き合ってもらってもいいかな?」
「? 付き合うもなにも今日一日って依頼だし、心配しなくても帰ったりしないよ」
「じゃなくて……その、今日以降も継続して欲しいの」
……無理でしょ。元々乗り気じゃなかったし、今日も『この日だけだ』と自分に言い聞かせて重い腰を上げたわけだし。
それに、これを出しに使って退部する予定なんだ。平凡なヲタク生活を取り戻すために。
「悪いんだけどこと──」
「ねえ丸口くん。私ねこれでも丸口くんのことを頼りにしてるんだよ。だからお願い♡」
手を合わせ、甘ったるい声音を出す麻倉。
コイツマジか。自分の可愛さを理解してやがる。
けど萌えと恐怖は姉さんのせいで耐性があるんだ。頑張ったろうにごめんね。
「麻倉さん、今日だって俺は役に立ってないし恋愛に関して疎いんだ。他の男友達か今度こそ部長とかに頼んでみたら?」
「私ね男の子の友達いないの。だって作ったら昂輝に対する浮気になるから。それに吉野先輩は他学年で受験生だから所構わず手伝ってもらうわけにはいかないでしょ?」
麻倉は立ち止まると俺の腕を掴む。当然、俺の足も止まる。
一条は気づかず吉野は気づいたが我関せずと素通りしていく。
「……だからね、頼れる人が丸口くんしかいないの」
「でも、麻倉さんの感性だと俺も浮気対象になるんじゃないの?」
全くもって意味が分からないがめんどくさいことこの上ない。
「丸口くんは吉野ちゃんを好きってことにしたし大丈夫だよ。あと
何が大丈夫なんだ。あとセーフってどういうことだ。
「いやでも──」
「こんなに頼んでるんだからダメなんて言わないよね?」
再度、拒否の意思を示そうと口を開いた俺の言葉を遮り麻倉が追い打ちを掛け る。
俺の腕を掴んでいる手にも更に力が込められていく。心なしか桃色の瞳から光も消えてる気がする。あとめっちゃ痛い。
ああダメだ、これは断れない。こういうタイプの要求を無理矢理にでも断ろうものなら怪我だけじゃ済まないんだ。ソースは姉。
「わ、分かった協力するよ」
「え? ホント?」
「ほんとに、だから手を離してくれ痛い」
「わっ、ごめん。ちょっとだけ力入っちゃてた」
パッと手を離し笑顔に戻る麻倉。あれでちょっとはない。もし冗談でないならコイツの握力はゴリラ並ということになる。
「はあ、この際協力するのはいいけど、具体的に期間とか決めてくれないかな。俺だって暇じゃないんだ」
「それもそうだね」
麻倉は顎に人差し指を当てう~んと考え込み、結論が出たのか手を合わせる。
「今月まででどう?」
「理由を聞いても?」
「心の準備に時間が掛かるの。女の子から告白するのは男の子がするよりも数倍、数百倍の勇気がいるんだよ」
そうなのか知らなかった。
「じゃあ、まあ今月まででいいよ」
「やった! 楽しくなってきたね」
面倒くさいことになったな。
言葉通りルンルン気分で歩き出した麻倉の後ろを俺はグッタリしながら追うのだった。
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