第8話電車の中で

 それからほどなくして電車が到着し俺たちは挨拶も程々に乗車した。

 日曜の昼前ともあって車内は混雑していた。

 少し離れたところでひそひそと楽しげに麻倉たちが話している中、俺と吉野は沈黙を貫いていた。

 元々自分から率先して話すようなタイプでも友達でもないのだから当然といえば当然だ。


 特にすることもないし景色でも眺めてようと正面を見やる。

 これまでに何度も目にしてきた景色。代わり映えしないからこそ落ち着く視界にちらちらと水色の頭部が映る。吉野だ。

 ドアに寄りかかる吉野は無心でスマホの画面をスクロールしている。そんな彼女を見て思う。


 ……そういや吉野って容姿だけは美少女だと。

 普段の言動により忘れていたが黙ってれば可愛いのだ。黙ってればな。

 俺の視線に気付いたのか吉野が見上げる。


 「なんだジロジロと……ボクに惚れたか?」

 「違う。来るとは思わなかったからさ」

 「佑助に言われたから来ただけだ」


 この依頼を受けた時もだけど、部長の言うことだけは素直に聞くんだな。


 「その服も部長に言われたのか?」

 「これはテキトーに選んだ服だ。似合ってるだろ?」


 似合ってはいる。美男美女は何着ても似合うというのは実話なのだ。絶対に口には出さないけど。


 「ネットで買ったのか?」

 「良く出来てるだろ? 兄が作ったんだ」


 へぇオリジナルなのか。センスはともかく凄いクオリティだ。


 「部長って器用なんだな」

 「服を作ったのは佑助じゃない。もう一人の兄の方だ」


 もう一人って、二人もいたのかお兄さんが。


 「どんな人なんだ?」

 「佑助と違って真面目だ。生徒会長やってるからな」


 ふふんとない胸を張る吉野は得意げだ。


 「生徒会長? あの入学式の時挨拶してた人が吉野のお兄さん……ってことは部長って双子だったのか⁉」

 「うるさい」

 「ごめん」


 思わず声が大きくなってしまった。恥ずかしい、反省せねば。


 「部長が双子か……全然見えないな。もしかして部長が弟なのか?」

 「佑助は長男だ」


 嘘だろ。部室でプラモ並べて遊ぶような人だぞ。長男には見えないって。

 吉野家の兄弟妹きょうだい事情に驚愕した心が落ち着く暇なく、電車は池袋駅に到着した。

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