第7話 待ち合わせ2
大山駅南口から池袋に行くには階段を上る跨線橋をまたぎ二番線のホームに行かなければならない。
よって俺は今、一条と楽しく談笑している麻倉たちから一歩引いて階段を上っている。
事前に決めた時刻からは既に五分遅刻しているが焦りはない。何故ならあいつが来ている確証がないからだ。
理由は二つ。
一つは単純に吉野がこの件に関して乗り気じゃないから。
二つ目が中板橋が最寄りの吉野に対して集合場所を手間でしかない大山駅のホームにしたこと。
普通に池袋集合で良かったのに麻倉がごねたのだ。正直意味が分からない。
以上の理由により高確率で奴は来ないだろう。
その結果、発生する一条からの同情に対して効果的な言い訳を今のうちに脳内シミュレーションしておこう。
とか考えてる間に階段は終わりを告げ二番線のホームに下り立つ。
「吉野ちゃん来てくれるかな~」
「来てくれるかなって誘ってOKもらえたんだよな?」
「もらえたけど吉野ちゃん気分屋だからね。来ない可能性もある」
困ったもんだと首を振る麻倉。
「吉野が来なかったらオレたち何のために集まったんだよ」
当然の疑問だな。一条からしてみれば自分がお手伝いなのに。
「それに勇気を出して誘った丸口がかわいそうだ」
あっまずい、一条の同情スイッチが入り始めた。
「大丈夫、俺気にしないから。それより万が一吉野が来なくても俺に気を使わなくていいからな」
「でも、今日は丸口の──」
「まだ来てないって決まったわけじゃないんだから悲しそうな顔しない。昂輝の悪い癖だよ。こういう時はむしろ楽しまなきゃ丸口くんだって辛いままだよ」
よし、ナイスフォローだ麻倉。
「麻倉さんの言う通りだ一条。あまり気遣われすぎると俺も困る」
「……だな、悪かった。今日はみんなで目一杯楽しもうぜ」
事前に考えていた言い訳を披露することはなかったが一条の気合いも入れ直った、ちょうどその時だった。
「ん? あれ吉野ちゃんじゃないかな」
麻倉が指を差す方を見れば、ぐで~っとベンチに座る吉野の姿があった。
絶対に来ないと思ってたのに、まさか来るとはな。
「吉野ちゃんおは──」
吉野の元へ近づきつつ挨拶をと口を開いた麻倉の言葉が止まる。
その原因は吉野の格好だ。赤いシュシュにより一つに纏められたポニーテールの髪形、『今日の主役』と書かれた白Tシャツにショートパンツ姿。
部屋着で着るならともかく出かける時に着ていくような服ではなかった。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
俺たちの内心など露知らない吉野は眠そうに目を擦っている。
正気かコイツ。なんて格好してやがる。
今日の趣旨を忘れてるのか? どういう神経してたらそんな服で来ようと思うんだ。
「な、なあ丸口。なかなか癖のある子を好きになったんだな」
「いや、うんまあ」
違うと今すぐ否定したい。こんな変な女が好きだなんて誤解されたくない。
はぁ最悪だ。
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