第6話 待ち合わせ
次の日。
俺は待ち合わせ場所であるハッピーロード大山商店街にある大山駅西口にて一人待ちぼうけていた。
天気は快晴、清々しい空気に包まれており実にデー、いやお出かけ日和である。
そんな好天に恵まれた中、俺は自分の服装を見やりため息を漏らす。
しましまのTシャツにカーディガンを羽織り下はスラックスの格好なのだが、
「我ながら着せられてる感が否めないな」
昨夜は姉さんに選んでもらったし大丈夫かと楽観的だったが、日を跨ぎ冷静になった今自分は周りから浮いてるのではと不安+羞恥心が湧きだし鼓動が早くなる。
「大丈夫だ落ち着け俺、姉さんを信じるんだ。俺に似合ってないかも知れないが姉さんが選んだ以上、変な格好じゃないことは確かだ……くそ、早く誰か来てくれ」
気持ちを落ち着けるため左腕に着けているスマートウォッチへと目を落とす。去年の誕生日に姉さんから貰った物で時間を確認出来るだけでなく、電子マネーやLINEのチェックなんかも出来る優れ物である。結構お気に入りだ。
「九時五十分か……あと十分はあるな」
指定された時間は十時。他のメンバーが来るにはまだ少し早い。
ここで突っ立ててもネガティブな事ばかり考えちゃいそうだし目の前のコンビニで時間つぶそうかな。
「よっ丸口。早いな」
突然の声に顔を向けると、そこには本日のメインである一条が立っていた。
「まあ、誘ったのはこっち側だし遅れるわけにはいかないだろ。……あれ、麻倉さんは一緒じゃないの?」
「なんか先に行っててくれって言われてさ、オレだけ先に来たんだ」
「そうなんだ」
「それより聞いたよ丸口。好きな子が出来たんだってな」
ん? 何を言ってるんだコイツは。
「えっと、何の話だ?」
「とぼけなくたっていいさ、いのりから事情は聞いてる。今日は全力でサポートするからさ安心していいぜ」
一条は人好きのする笑顔を浮かべながら親指を立てる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 麻倉さんから何て誘われたんだ?」
「……何って、丸口に好きな子が出来たって相談されたから、その手伝いをしてほしいって」
ああなるほど合点がいった。自信満々に『昂輝を誘うのは私に任せて』なんて言うから麻倉さんに任せたけど失敗だったか。
何故、麻倉さんがこんな奇行に走ったのかは謎だけど厄介なことになった。
今すぐにでも『友達でもない麻倉さんに恋愛相談なんてするわけがないだろ』って言ってやりたいが、そうなると一条の不審を煽ることになる。
め、面倒くさい。
顎に手を当て思考を巡らせる俺を見た一条は、
「もしかして迷惑だったか? 中学の頃からの付き合いだし力になりたかったんだけど余計なお世話だったか?」
頬を掻きながら申し訳なさそうに笑う一条。
ええい、この優男が。そんな顔するなよ、こっちが悪いみたいじゃないか。
「そんなことないって、ちょっと驚いただけだ。来てくれてありがとう」
「同中のよしみだ気にすることねーよ。それより何でいのりに相談したんだ? 今まで接点なんてあったか?」
まあ、当然の疑問だよな。俺でも分からん。
「なんて言うか色々と偶然が重なってさ、成り行きというか何というか」
「……そっか、オレもよく経験してるから分かる」
今ので納得できるとか天才かコイツ。
「にしても意外だな、丸口って吉野みたいな小柄な子がタイプだったんだな」
「まあそうなるのか? というか知ってるのか吉野のこと」
「そりゃ知ってるさ、可愛くて有名だからな。てか、なんで疑問形だよ自分のことだろ」
クラス内で騒がれてるのは知ってたけど他クラスでも話題に上がるんだな。考えてみれば当然か全部で三クラスしかないんだし。
「ごめーん。待った?」
「いや、俺たちも今来たとこ」
「よかった少し準備に時間掛かっちゃって。あっ丸口くん、おはよ」
「ああ、おは……⁉」
時間通りに到着した麻倉へ顔を向けた瞬間、その服装に衝撃が走り絶句した。
頭から足まで黒と白を基調としたフリフリの服とアクセサリーを身に纏った、地雷系? の服装だったからだ。
特に目を引いたのは普段学校では絶対見せないツインテールだ。
「どうかした?」
固まる俺を見て不思議そうに首を傾げる麻倉。
「驚いてるんだろ。いのりはもう少し自分の服装に対する周りの認識を理解したほうがいいぞ」
「別に周りからどう思われようと私気にしないし」
「はぁ……そういうことじゃないんだけどな。悪いな丸口、いのりは昔からこんな感じの服が好きなんだ悪く思わないでやってくれ」
「大丈夫、ちょっと驚きはしたけど嫌ではないから。身近にもたまに似たような服着る人いるし」
もちろん姉さんのことだ。俺の好きなキャラ白亜・フィールドの盛装がゴシックロリータなのを知って着るようになったんだが、俺が好きなのは服じゃなくてキャラなんだよな。
「そっか……ちょっと変なとこはあるけど今日を機にいのりとも仲良くなってほしい」
「ちょっと何言ってんの恥ずかしいからやめてよ」
バシンと力強く一条の肩を叩いた麻倉は赤面している。一方、思ったより痛かったのか肩をさすっている一条。
「とりえず三人揃ったし行くか。もう吉野ついてるかもだし」
「じゃあ先にホーム行っててよ。私チャージしてくから」
「おっけい。丸口行こうぜ」
「ああ、行こうか」
一条の言う通り、ここで油を売っている今も吉野が一人で待っているかもしれない……いや、よく考えたらちゃんと来てるか怪しいな。
話し合いの時も終始やる気なさそうだったし。
思い返せば返すほど吉野が来る可能性が低い事に辟易しながら改札へと足を向けた。
「丸口くんは残って。少し話しておきたいことがあるから」
「絶対?」
「ぜぇーたい」
俺を捉える麻倉の目はどこか真剣だ。
「わかった。先に行っててくれるか一条」
「それは構わないけど……いのり、長くなりそうか?」
「ううん、そんなに時間は掛からないから階段のとこで待ってて」
麻倉からの返答を聞いた一条は俺の肩を小さく叩き『しっかりな』とだけ言い残し改札を抜けて行った。
「えっと話ってなんだ?」
「今日のこと改めて確認しとこうかなと思ったの。丸口くんしか頼れなそうだし」
券売機を操作しながら麻倉。
その気持ちは分かる。多少なり吉野と過ごせば誰でも理解できるのだ、奴は他人に関心がないと。
ほんと何でこの部活に入ったんだ。
「私ね、今日はチャンスだと思ってるの。
本気……なんだな。
「やれることは全力でやりたいの。丸口くんどこまで覚えてる?」
「大雑把になら全て把握してる」
「えっ? ほんと? 嘘じゃなくて……?」
「じゃないじゃない。水族館行ったら、まず館内エリアで魚を見つつそこで自然に別れるんだろ?」
「ちゃんと覚えてるなんて……丸口くん見直したよ」
ふっ寝る前にメモを見返したからな。抜かりはない。
「一通りの流れは覚えてきてるから心配しなくていいよ」
「ありがと。絶対、
そう言って笑顔を浮かべ手を差し出してくる麻倉を見て、ふと思い出す。
「そういえば、俺が吉野を好きだって一条が誤解をしてるのは何でだ?」
途端、ピタリと差し出された手が固まった。
「…………」
「麻倉さん?」
固まったままでいる麻倉へ声を掛けると、笑顔のまま俺の目を見つめ口を開いた。
「丸口くん。チャージ終わったし行こっか」
有無を言わせず改札へ歩き出した麻倉の背を、俺は無言で追いかけた。
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